老人必用養草8(季節の養生について1)

香月牛山

引き続き『老人必用養草(ろうじんひつようやしないぐさ)』を紹介します。
この本は香月牛山(かつきぎゅうざん)が1716年に著した本です。
老人の養生、老人への接し方など現代にも通じるいろいろな教訓が書かれていて、今読んでもためになります。

今日は「四時の保養の説(季節ごとの養生)」の中の春、夏に関する部分を抜粋して読んでみます。


【原文】
・春三月の時を『素問』に「発陳」といひて、故をひらき新に従ふ時なれば、「蚤に起て、広く庭に歩て、形を緩す」とあり。しかれども、正二月の間は、いまだ余寒烈しければ、老人はおそく起て寒を恐れて庭に出る事なかれ。三月の初つかたよりは、漸々に陽気さかんにして天気和暖なり。此時に至りては、老人も蚤に起て広く庭を歩行し、草木の芽の舒長して青々たる嬾葉を見て心を和楽にすべし。これ春の気に相応するの事にして、生を養ふの為にかなふなるべし。

・夏三月を『素問』に「蕃秀」と云て、陽気の盛んなる事極り、葉物みな茂り秀る時なれば、蚤に起て長日を惰る事なく、志をして怒る事なからしめよ。怒ときは、肝木の気逆上して脾土をやぶる。「これ夏の時長を養ふの為なり」といへり。ことに老人は虚火たかぶりて怒やすし。つつしむべき事なり。

・夏のときは極熱にして万の物みな損じやすき也。此とき老人は飲食をつつしみ、脾胃を養ふべし。極熱の時は、甜瓜、西瓜、冷麺、葛の水線、菉豆の麺條など少食ふときは、熱を解して快し。おほく食する事なかれ。夏月は伏陰内にありとて、人の臓腑かへつて冷る時なれば、上にいふ所の冷物脾胃をやぶるなり。少き食ふときは、暑気を払ひてよし。おほく食ふ時は損有。能々心得べき事なり。

・暑熱の時、高貴の人、富ある人は、涼台や水館とて、陰木のもとに楼閣をかまへ、水上にかけ作して鈎殿をもうけ、涼を納るの便とする類おほし。貧しき人もその程々にしたがひて、木の枝に竹木を架し、床をなして、涼み棚などいひて涼を納る事なり。(中略)老人かくのごときの所に長居をすれば、おぼえず元気耗散し、水湿の気にうたれ、冷気透りて病を生ず。


【訳文】
・春の三か月を『素問ソモン』では「発陳ハッチン」と言って、古く固まったものを去って新しいものに従う時なので、「早く起きて庭を広く歩き、体をほぐす」とある。しかし、1月2月の間は、まだ余寒が激しいので、老人は遅くに起きて冷えを避けて庭に出ない方がよい。三月の初めからは、だんだんと陽気が増え天気が和やかで暖かい。この時になったら、老人も早く起きて庭を広く散歩し、草木の芽が伸びているところや、青い若葉を見て、心を穏やかにする。これが春の季節に応じることで、命を養うために適していることである。

・夏の三か月を『素問』では「蕃秀バンシュウ」と言って、陽気が極めて盛んで、草木の葉は全てよく茂る時なので、朝早くに起きて日を怠惰に過ごさず、志をもって怒らないようにしないといけない。怒ると、肝木の気が逆上して脾土を傷つける。「これ夏の日長を養うためである」という。特に老人は陰が少なく、虚火が昂って怒りやすい。注意すべき事である。

・夏は極めて暑く、全ての物が傷つきやすい。この時分には老人は飲食を節制し、胃腸を養う。極めて暑い時は、まくわうり、すいか、冷や麦、葛切り、緑豆の麺などを少し食べることで、熱を冷まして快くなる。たくさん食べてはいけない。夏は伏陰が内にあり、人の臓腑はかえって冷えるときなので、上に言う冷えた物は胃腸を傷つける。少し食べるときは暑気を払ってよい。多く食べると体を損なう。よく心得るべき事である。

・暑い時、身分の高い人や、お金のある人は、涼台や水館といって、木陰に楼閣を構え、水上にかけて鈎殿をつくり、涼をとることが多い。貧しい人もその程度にしたがって、木の枝に竹をかけ、床をつくり、涼み棚などといって涼をとる。(中略)老人はこのような所に長居すると、知らぬ間に元気が消耗し、水湿の気に侵され、冷気が体に侵入して病を生じる。


以上をまとめると、
春は、まだ寒い内は冷気にあたらないようにして、3月の初めごろ、暖かくなってから身体を動かしてほぐすようにする。
夏は、朝早くから起きて、冷えたものはあまり食べ過ぎないようにする。水辺や木陰で長く過ごしたり、夜まで過ごしたりすると、水湿に侵されて病気を生じるので、そういった場所にはあまり長居してはいけないということです。

次は、秋、冬の養生のお話です。

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かぜ(コロナ?)

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 夫がかぜで倒れたあと、発症。頭痛、手足がだるい、寒け少し、37℃強の微熱。

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コロナ後の痰・息切れ

40代女性
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 2年前の秋にコロナ感染。痰が粘っこくひっつく。夜に1時間ごとに起きることもある。通常は透明で粘っこい痰。黄色い痰が出るとすっとする。夕方に悪化。
 “水蛭が入った漢方薬”をもらって服用しているが、効果なし。

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発疹

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 数か月前から皮膚に地図状の赤みが出てきた。凹凸なし。痒み(-)、カサカサ(-)。

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眼感染症

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主訴:眼感染症

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 コンタクトレンズを付けると、曇って見えた。眼科を受診すると、感染症と言われ、抗菌薬の点眼薬を処方された。点眼薬が合わず、途中で中止。1ヶ月後の受診時に治っていないと言われた。
 目の痒みは少し。痛み(−)。目脂は1週間に1回くらい。涙が出やすい(−)。目が疲れる。元々ドライアイ。

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気象病(天気痛)について

半夏4

気象病(天気痛)とは、天気や気圧の変化によって起こる痛みや体調の悪化をいいます。
雨の日が近づくと頭痛がしたり、リウマチの人なら関節が痛くなったり、喘息の人なら少しぜーぜーするなどの症状が出てきたりします。

漢方では、体の中に湿気をため込んでいる人は、気象病の症状が出やすいです。
体の中に湿が溢れていると、体の外の湿に、体の中の湿が反応して、体への影響が大きくなります。
カラッと晴れた湿度の低い、いい天気の時には、体内の湿も鳴りを潜めて大人しくしているのですが、外に味方がいるときには暴れてしまいます。

体の中に湿をため込む人(水の巡りが悪い人)は、いくつかの種類に分けることができます。
胃腸が弱いタイプ、腎が弱いタイプ、冷えているタイプ、肺が弱いタイプなどがあります。
胃腸が弱いタイプは、食事の量はあまり食べられなかったり、食後に眠くなりやすかったりします。漢方では、胃腸は水をさばく働きがあると考え、胃腸が弱いと、水の巡りが悪くなって、手足や頭に湿が溜まりやすくなります。
腎が弱いタイプは、喉が渇いて飲むけど尿が出にくかったりします。尿による不要な水の排出が悪くなることで、湿が溜まりやすくなります。
冷えているタイプは、手足が冷えやすかったり、冷たいものが飲めなかったりします。冷えているせいで、体内の水の巡りが悪くなり、湿を溜めてしまいます。
肺が弱いタイプは、かぜをひきやすかったり、動くとすぐに汗が出たりします。肺は体の上部や体表面の水を動かす働きがあるので、肺が弱いことも湿が溜まることに繋がります。
このほかにも、精神的ストレスで全身の気(エネルギー)の巡りが悪くなり、それに伴って水の巡りが悪くなるのが絡んでいる人もいます。
1人の人の中に、いろいろなタイプが混ざっていることが多いので、その人にあったお薬を選ばないといけません。

では、湿をため込まないためにはどうすればよいかですが、湿を入れない・生み出さない、湿を追い出す、この2つが原則です。
水を飲む量を考えたり、湿を生む甘いものや脂っこいものを避けたりして、湿の発生を防ぎ、しっかり動いて汗や尿として湿を追い出すなどが効果的です。
体が冷えると気血水の巡りも悪くなるため、氷入りの水分は取らないことなども重要です。

天気に関連する不調に関しては、西洋薬ではあまり効果がないため、漢方薬が大きな力を発揮します。
お一人お一人に合った漢方薬をご提案します。
よければ、一度ご相談ください。

暑熱馴化(しょねつじゅんか)について

防風1

暑熱馴化(しょねつじゅんか)。なぜかこの2、3年で急にニュースで聞くようになった言葉です。暑熱馴化ができていないと、熱中症のリスクが高まります。
体が暑さに馴れる馴れないとは別に、体質として、なかなか汗をかかない方は、結構います。漢方相談で来店される方の場合、汗をかきやすい、或はかけるかどうかはかなり重要な判断材料となります。

さて、暑熱馴化に関して簡単に説明すると、急に気温が上がる時期や、暑い日が続かない時期は、まだ体が暑さに慣れていなくて、汗を出したり体表面の血管を拡げて熱を体の外へ逃がす機序が上手く働かないということです。

厚労省や日本気象協会の情報から引用すると、予防には、ウォーキングやサイクリングなどの軽い運動、筋トレ、入浴などが有効で、汗を出やすい体にできると言います。
一度、体が暑さに慣れても、数日暑くない日が続くと、元に戻ることがあり、5月、梅雨の晴れ間、梅雨明けなどは気を付けなければいけません。

また、利尿薬や、自律神経にはたらくパーキンソン病の薬、広範囲の皮膚疾患を持っている方などは、熱中症の危険性が高いです。

まずは、運動で汗腺を鍛えることが重要ですが、それでも体質として難しい方は、漢方薬も選択肢になります。
漢方では、汗をかけないのは、体表面まで気を持って行けなかったり、体表面までの道で気が滞っていたり、体が冷えていて代謝が悪いなどの状態が考えられます。
漢方薬を試してみたい方は、一度ご来店ください。

唇の荒れ

80代女性
主訴:唇の荒れ

現病歴:
 唇が1ヶ月ほど前から荒れている。皮がめくれていて、自分でもめくってしまう。

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ゴールデンウィーク営業日(2024)のお知らせ

ゴールデンウィークはカレンダー通りに営業いたします。

休業日:2024年4月28日(日)、29日(月)、5月3日(金)~6日(月)
営業日:2024年4月30日(火)~5月2日(木)

期間中、メールでのお問い合わせは受け付けておりますが、お返事は翌営業日以降となります。
また、オンラインショップの発送業務も停止いたしますので、予めご了承くださいませ。

ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願い申し上げます。

老人必用養草16(老人の疾病治療について1)

香月牛山

引き続き『老人必用養草(ろうじんひつようやしないぐさ)』を紹介します。
この本は香月牛山(かつきぎゅうざん)が1716年に著した本です。
老人の養生、老人への接し方など現代にも通じるいろいろな教訓が書かれていて、今読んでもためになります。

今日は老人の疾病治療に関する部分を抜粋して読んでみます。

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かぜのような体の不調

50代女性
主訴:かぜのような体の不調が続く

現病歴:
 趣味のスポーツを練習中、かぜのような寒気がした。葛根湯を飲んで少し元気になった。1週間後、同様の症状。
 食欲不振はないが、若干の寒気がある。毎年、春先に体調を崩しやすい。夜に寝る時だけ咳が出る。

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漢方の「肝」について

漢方と現代医学では、同じ用語でも全く同じものを指すことはありません。
「五つの臓(臓器)」の名前でいうと、西洋医学では、臓器そのものの実体を指す言葉ですが、漢方では、システムや機能単位で区切った言葉です。
今回、「肝」について紹介いたします。
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しびれ・知覚鈍麻について

正常な人でも、正座を長時間した後に、しびれを感じることがあります。慢性的に血行不良が続いたり、一時的な血行不良のあと、一部血流が再開すると、しびれを感じます。
漢方でも、しびれや知覚のマヒは、症状のある部分に気血(エネルギーや血液)が届かなくなって起こると考えます。
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年末年始休業日のお知らせ(2023~24年)

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2023.12.16(土)

漢方薬局ハレノヴァの年末年始休業日をお知らせいたします。

年末年始休業期間:2022年12月29日(金)~2023年1月4日(木)

期間中、メールでのお問い合わせは受け付けておりますが、お返事は2023年1月5日(金)以降となります。
また、休業期間中はオンラインショップの発送業務も停止いたしますので、予めご了承ください。

ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願い申し上げます。

コロナ後の不調(体のだるさ、痰・喉の違和感)

40代男性
主訴: コロナ後の体のだるさ、痰、喉のイガイガ

現病歴:
 午前中は動けるが、午後からしんどくなる。体を動かした後や、仕事に集中するとだるくなる。昼食後は眠たい。夕方も時に寝たい。休日も不変。
 咳はでないが、痰が出る。透明で粘っこい。たまにのどにへばりついている。
 のどのイガイガは朝はマシで夕方になるにつれて悪化。
 コロナは1ヶ月前になった。初めは強い寒気、発熱37.5℃、水様便2~3日。その3日後に強いのど痛。さらに4日後に痰、咳だけ残った。

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病気になりにくい体・再発しにくい体について④(治療薬・健康を保つための薬)

人参5

前回、邪を防ぐ、邪の発生を予防するための方法をお話ししました。
今回は、漢方薬にも、治療のための薬、健康を保つのための薬があることについてお話しします。

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