前回に引き続き、『老人必用養草(ろうじんひつようやしないぐさ)』を紹介します。
この本は、以前に紹介した『小児必用養育草(しょうにひつようそだてぐさ)』の香月牛山(かつきぎゅうざん)が1716年に著した本です。
老人の養生、老人への接し方など現代にも通じるいろいろな教訓が書かれていて、今読んでもためになります。
今日は食養生の部分を抜粋して読んでみます。
【原文】
・飯はよく熟して中心まで和かなるをくらふべし。こわきはあしく、ねばるはあしく、煖なるによろしく、冷るによろしからず。夏月といふとも冷たる飯をくらふ事なかれ。冬月といふとも熱飯を喰事なかれ。飯にむかはば、あらかじめ何ほど食んと心にて定めて其分量にすぐべからず。老人は一口の食もおほきときは、その気に堪がたく、消化しがたく、養ふものを以て、かへりて害をなすなり。能々心得べき事なり。
・(前略)『素問』にも「五穀は養をなし、五菜は充をなす」とあるも、此こころなるべし。然れば、肉と野菜の類は、食よりもすこしく食ふべきなり。聖人も「肉はおほしといへども食の気にかたしめず」とのたまふ。ことはりふかき事なり。
年老ては肉食にあらざれば気血をます事なしとて、鳥獣の肉を好んで食ふ類の人おほし。これ其理にくらき故なり。世俗の肉をもてやしなふといふ事をつのるは、その味の口にかなふによりてその性をほめ、一時の心よきをとるのみなり。
【訳文】
・ご飯はよく火を通して中心まで柔らかいものを食べるのがよい。堅いものや粘るものは悪く、温かいのがよく、冷たいのはよくない。夏であっても冷えたご飯を食べてはいけない。冬であっても熱いご飯を食べてはいけない。食べるときは、あらかじめどれだけ食べるか決めて、それより多く食べてはいけない。老人は一口でも多く食べると、食べ物の気に堪えられず、消化できず、身体を養うものでかえって害を与えている。よく心得るべきことである。
・(前略)『素問』にも「五穀は体を養い、五菜は体を補う」とあるのも、これを言っている。なので、肉や野菜などは、主食よりも少なく食べるのがよい。聖人も「肉を多く食べても、主食の気より多くはしない。」と言っている。深い道理があることだ。
歳をとってからは肉を食べないと気血を増すことができないと、鳥や獣の肉を好んで食べるような人が多い。これは養生の方法を知らないためである。世間で、肉によって体を養うと言うことが多いのは、味がよいためにその性質をほめて、一時の快楽をとっているだけである。
食養生の部分を読んでいると、冷えているものはいけない、量は少ないのはいけないが、多くてもいけないと頻りに書いてあります。今の日本ではありがたいことに、食べ物が不足することはほとんどないので、食べ過ぎにはよく気を付けないといけません。口のいやしいのにまかせて、どんどん食べていると、いずれ体を壊してしまいます。老人は体が衰え、何をするにも体の負担になるので、このように再三諫めているという理由もありますが、若い方、働き盛りの方こそ気を付けていただきたいです。体はまだ丈夫ですが、丈夫な内から心がけることで、健康なまま歳をとることができます。
肉や野菜は主食より少なく食べるのがよいというのも最もなことです。体を動かすエネルギーは穀物からとり、肉や野菜は体を調えるために食べるものと考えるべきです。糖尿病などでは炭水化物を制限するのもいいですが、糖尿病でない人が考えないといけないのは、炭水化物の量ではなく、お米、肉、野菜のバランスと全体の量です。
歳を取ってからは肉を食べた方が体が衰えないと言われますが、肉を食べる気にならない、胃もたれする方が多くいらっしゃいます。肉を食べるから体が丈夫になるのではなく、肉が食べられるほど胃腸が強いから長生きするんです。胃腸が弱くなるのは、歳をとると仕方のないことなので、漢方薬で強くしてもらえたらと思います。
さて、今回見た食養生の部分は、もう少しあるので、残りは次回ご紹介します。
次回は麺、お酒、お茶、タバコのお話です。
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