老人必用養草4(飲食について:麺類・酒)

香月牛山

 引き続き、『老人必用養草(ろうじんひつようやしないぐさ)』を紹介します。
 この本は、以前に紹介した『小児必用養育草(しょうにひつようそだてぐさ)』の香月牛山(かつきぎゅうざん)が1716年に著した本です。
 老人の養生、老人への接し方など現代にも通じるいろいろな教訓が書かれていて、今読んでもためになります。

 今日は前回の続きで、食養生の麺類、酒の部分を抜粋して読んでみます。

【原文】
・『本草』にも「蕎麦を折々食って腸胃の垢を去べし」とあり。厚味の人などは打てかし食ふべし。妨なし。されども老人の陰血よはく、脾血かはきたるに、腸胃の垢を去やうなる物を食ふ事よろしからず。多く食へば泄瀉をなし、或は卒中風を発する者多し。
〈中略〉惣て湿麺の類少く食ふ時は害なし。今の人は湿麺を食ふに、腹に満ざればやまず。故に害をなす事多し。

・酒は人に益あり。陽気をたすけ、血気をやはらげ、食気をめぐらし、腸胃を厚くし、皮膚を潤し、憂をわすれ、胸を発して意を暢て心をたのしましめ、寒湿をさり、悪気をころし、風寒暑湿の気にをかされず。夏は涼しく、冬は寒気をふせぎ、中をあたため、諸の食毒、諸の薬毒を解し、薬の勢をめぐらす。
〈中略〉生まれつきてこれを嗜む老人、つねに少く飲ときは、上にいふ所のごとく其益多し。
〈中略〉老人の気血をやしなふ事、酒にまされる物なし。され共、上戸に生れつきたる人は少飲て楽しむ事をしらず。口腹にかなふ故に、十分にのみて元気をやぶり、脾胃を損じて大病を生ず。壮年の人だも過酒すれば身をそこなふ。いはんや老人の気血うすき、此はげしき純陽の気に堪べけんや。
〈中略〉その人の酒量よりもひかへめに飲事をしるべし。ひかへ過すとおもはば、よきほどよりも過ぐべし。よきほどとおもはば、いつにても分量よりは過べし。能々心得べき事なり。

【訳文】
・『本草綱目』にも「蕎麦をときどき食べて胃腸の垢(あか)を取るのがよい」とある。濃い味を好む人は自分でそばを打って食べるのがよい。体に障ることはない。しかし、老人の陰血(体をつくっている細胞など)は弱く、脾血(消化器を巡る血)が少ないので、胃腸の垢を去るようなものを食べるのはよくない。多く食べれば、下痢をするか、或いは脳卒中になるものが多い。
〈中略〉湿麺(うどん、そうめん、そばなど)は全て、少しだけ食べるなら害はない。今の人は湿麺を食べるときは、腹いっぱいになるまで食べるのをやめない。なので害となることが多い。

・酒は人によいことがある。陽気(体の熱やエネルギー)のはたらきを助け、気血の循環をよくし、食欲や消化のはたらきをよくし、胃腸を丈夫にし、皮膚を潤し、気にかかることを忘れさせ、胸のわだかまりを発散して、心をのびのびとさせて楽しませ、体の冷えや水を去り、体外からの邪気を殺し、気候や気温などの外からの刺激で体をこわさないようにする。夏は体を涼しくさせ、冬は冷えを防ぎ、胃腸を温めて、様々な食べ物の毒、様々な薬の毒を消し、薬効を体にめぐらせる。
〈中略〉元来、酒をたしなむ老人は、少ない量を飲むなら、さきに言ったような利益が多い。
〈中略〉老人の気血を養うには酒より良いものはない。しかし、大酒家に生まれた人は少なく飲んで楽しむということを知らない。おいしいからと、たくさん飲んで元気を損ない、胃腸を悪くして大病を生じる。まだ若い人も量を過ぎれば体を害する。言うまでもなく、老人のように体力が衰えてるものは、激しい純陽の気に(体の機能を亢進させるだけで栄養とならないので)体が耐えられない。
〈中略〉人それぞれの酒量よりも控えめに飲むことを考えないといけない。控え過ぎていると思えば、適量よりも多いものだ。適量だと思えば、必ず量が多すぎる。よくよく心得るべきことである。


 蕎麦が胃腸の垢を取るというのは、蕎麦は、体を冷やし体にこもった余分な熱をとることと、食物繊維が豊富なことを指すのだと思います。蕎麦は消化しにくいため胃腸が弱い人には適さず、多く食べすぎてはいけません。やはり、ここに書いてある通り、嗜む程度に食べるのがいいのでしょう。
 お酒の効能については、多くの人が実感していることが並べられています。お酒を飲むと血行が良くなり、食欲が増し、気分がよくなるというのはよくわかることです。ただし、「風寒暑湿の気にをかされず(気候や気温などの外からの刺激で体をこわさないようにする)」という効能は一見納得いきません。酒を飲んで冷たい風に当たれば、体が冷えてかぜをひくことがあります。しかし、さらに先を読むと、少ない量ならばという注意があり、合点がいきます。少量なら、前に書いてあるような効能があるのであって、飲みすぎると体への害ばかりになります。
 お酒は適量が大事です。ここに書いてあるように、「多くの場合、控え過ぎと思える量より少ないくらいがちょうどいいということを知らず、適量よりずっと多い量を飲んでしまう」ということを心に留めておかないといけません。
私も飲み過ぎてしまうので、自省の意をこめてこの部分を取り上げました。



 さて、今回見た食養生の部分は、もう少しあり、次回で終わりです。
次はお茶、タバコのお話です。

老人必用養草の記事一覧はこちら↓
https://halenova.com/blog/?p=4887

漢方薬局ハレノヴァ

TEL: 06-6312-8429

大阪市北区末広町3-21 扇町センタービル1F

ご相談予約

症状・病気別漢方

症例

漢方の「肝」について

漢方と現代医学では、同じ用語でも全く同じものを指すことはありません。
「五つの臓(臓器)」の名前でいうと、西洋医学では、臓器そのものの実体を指す言葉ですが、漢方では、システムや機能単位で区切った言葉です。
今回、「肝」について紹介いたします。
続きを読む »

しびれ・知覚鈍麻について

正常な人でも、正座を長時間した後に、しびれを感じることがあります。慢性的に血行不良が続いたり、一時的な血行不良のあと、一部血流が再開すると、しびれを感じます。
漢方でも、しびれや知覚のマヒは、症状のある部分に気血(エネルギーや血液)が届かなくなって起こると考えます。
続きを読む »

年末年始休業日のお知らせ(2023~24年)

19052301

2023.12.16(土)

漢方薬局ハレノヴァの年末年始休業日をお知らせいたします。

年末年始休業期間:2022年12月29日(金)~2023年1月4日(木)

期間中、メールでのお問い合わせは受け付けておりますが、お返事は2023年1月5日(金)以降となります。
また、休業期間中はオンラインショップの発送業務も停止いたしますので、予めご了承ください。

ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願い申し上げます。

コロナ後の不調(体のだるさ、痰・喉の違和感)

40代男性
主訴: コロナ後の体のだるさ、痰、喉のイガイガ

現病歴:
 午前中は動けるが、午後からしんどくなる。体を動かした後や、仕事に集中するとだるくなる。昼食後は眠たい。夕方も時に寝たい。休日も不変。
 咳はでないが、痰が出る。透明で粘っこい。たまにのどにへばりついている。
 のどのイガイガは朝はマシで夕方になるにつれて悪化。
 コロナは1ヶ月前になった。初めは強い寒気、発熱37.5℃、水様便2~3日。その3日後に強いのど痛。さらに4日後に痰、咳だけ残った。

続きを読む »

病気になりにくい体・再発しにくい体について④(治療薬・健康を保つための薬)

人参5

前回、邪を防ぐ、邪の発生を予防するための方法をお話ししました。
今回は、漢方薬にも、治療のための薬、健康を保つのための薬があることについてお話しします。

続きを読む »

病気になりにくい体・再発しにくい体について③(邪への対処)

牛黄2

前回、正気を強くするためにはどのような方法があるかお話ししました。
では、邪を防ぐ、邪の発生を予防するにはどうすればよいでしょうか。
1,邪を細菌やウイルスとする場合、2,気候や環境とする場合、3,気血水の滞りとする場合に分けて考えてみます。

続きを読む »

病気になりにくい体・再発しにくい体について②(正気を強くする)

瓊玉膏300g8 沈香

前回、病気にならないためには、正気を強くするか、邪の侵入を防いだり、邪を体に溜め込まないようにするかどちらかという話をしました。
では、正気を強くするにはどうすればよいか。
正気を強くするには、正しい食事と睡眠をとる、治療のための薬ではなく保健のための薬を飲む、体の熱や冷えのバランスを整える、五臓(肺心脾肝腎)のバランスを整えるなどが必要です。

続きを読む »

病気になりにくい体・再発しにくい体について①(正気と邪)

防已3

病気になりたくないのは、全ての方に共通している思いではないでしょうか。
(むしろ病気になりたいという方は、深淵な哲学をお持ちの方か、探究心を窮めた狂気じみた方か、芯の図太い徹底した天邪鬼だと思います。)
では、病気になりにくい体、病気が再発しにくい体を目指すためにはどうすればよいでしょうか。
漢方の視点、治療薬、保健薬、生活習慣、心、いろいろな面からどうすればよいかを考え、何回かに分けてお話ししていこうと思います。

続きを読む »

夏季休業期間のお知らせ(2023)

8月のたぬき

2023年8月10日(木)

漢方薬局ハレノヴァの夏期休業期間をお知らせいたします。

夏期休業期間:8月11日(金)~8月16日(水)

休業日もメールでのお問い合わせは受け付けておりますが、お返事は翌営業日以降となります。
また、オンラインショップの発送業務も停止いたしますので、予めご了承ください。

ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いいたします。

瓊玉膏について⑥(更年期)

更年期の悩みは、パートナーの方など周りに理解されないことも多く、一人で抱え込んでしまうこともあります。
現在は、更年期症状が出る年齢が早まっている方も少なからずいらっしゃって、そういった方は、世間一般にいう更年期の年齢ではないため、一層、理解を得られにくくなっています。

続きを読む »

車酔いからくる手足のしびれ

40代女性
主訴:車酔い・手足のしびれ

現病歴:
 前日バスで酔った。以前からあるが、車酔いで胃の違和感、胃のしびれが出て、その後、手足がしびれ、体が硬直して動かなくなる。
 明日から車を運転して、出かける予定なので、何とかしたい。
 今日は食べられるがムカムカしている。頭に霞がかかったよう。手足の冷え(-)。喜冷飲。ムカムカと頭の症状同程度。

続きを読む »

こむら返り・便秘

70代男性
主訴:#1こむら返り・#2便秘

現病歴:
#1ゴルフをしていると後半に足がつる。芍薬甘草湯を飲んで、以前は効いていたが、効かなくなった。夏もつる。つりやすい時間帯はない。足に毛布をくるんで寝ると多少マシ。
#2直腸がん切除後から排便障害あり。酸化マグネシウムで便通がある。出が悪く、ガスも溜まる。便秘で胸が悪くなる。

続きを読む »

回春仙について③(気付け)

回春仙は、13種類の生薬を配合し、心臓の症状以外にも応用できる漢方薬です。
1丸が小さいため服用しやすく、瓶も小さいので持ち運びやすいのが特徴です。
症状があるときに服用する、頓服薬としてとても便利な漢方薬です。
今回は、気付けに対する効果についてお話します。
続きを読む »

過敏性腸症候群(IBS)について

過敏性腸症候群(IBS)は、腹痛や便通の異常があり、数ヶ月にわたって慢性的に続く病気です。
人によって、便秘だけ、下痢だけが続いたり、便秘と下痢を交互に繰り返すこともあります。
症状が強いと、電車に長時間乗れず、トイレがない車両だと不安だったり、緊張する場面になるとすぐにお腹が痛くなり、トイレに何度も駆け込むなど、生活に支障をきたすこともあります。
漢方では、どう考えて薬を決めていくのか、次にご紹介します。
続きを読む »

回春仙について②(やる気の低下・頭がぼーっとする)

回春仙は、13種類の生薬を配合しており、気(≒エネルギー)や陰(機能亢進過剰を抑えるもの)などをバランスよく補充できる漢方薬です。
1丸が小さいため服用しやすく、瓶も小さいので持ち運びやすいのが特徴です。
症状があるときに服用する、頓服薬としてとても便利な漢方薬です。
今回は、やる気の低下・頭がぼーっとするのを改善するはたらきについてお話します。
続きを読む »