引き続き、『老人必用養草(ろうじんひつようやしないぐさ)』を紹介します。
この本は、以前に紹介した『小児必用養育草(しょうにひつようそだてぐさ)』の香月牛山(かつきぎゅうざん)が1716年に著した本です。
老人の養生、老人への接し方など現代にも通じるいろいろな教訓が書かれていて、今読んでもためになります。
今日は食養生の最後、お茶とたばこの部分を抜粋して読んでみます。
【原文】
・茶は老人のもてあそび物にして、人によりては、朝茶とて空腹より飲む人おほし。性、冷にして人の津液をもらし、腎精をへらす。よろしき物にあらず。されども常に食後に少しく飲ときは、食毒を消し、気を下し、眼を明らかにするの徳あり。厚味の人は老人の気血薄き人も少く飲ときは益あり。
煎茶、輾茶ともにその人のすきにまかすべし。老人は濃茶を夜に入て飲べからず。気を下すによりて目をさまして眠る事をえず。いとど老の寝覚を催し、しばしば小便を通じて其害甚し。能々心得べき事なり。
・〈前略〉此烟草の性、石匏氏が説所「胸の中の痞、痰の塞を通じ、経絡の結滞を開き、寒湿の痺を治する」といへり。これその効能をほめたる也。又その毒を弁ずるには、「烟気胃中に入て気道頓にひらけ、偏身共に快に似たれ共、火と元気と両ながらたたず。人の元気、此邪火に堪えがたし。終日薫灼するの勢かならず真元の気をやぶり、陰血日々に涸て、暗に天年を損ずれ共、人これをおぼえず」といへり。
しかれば老人の陰血涸て元気薄きもの、此邪火に堪べけんや。〈後略〉
【訳文】
・茶は老人が好む物で、人によっては朝茶と言って、空腹なうちに飲む人が多い。茶の性質は冷で、人の水分を排出し、生命の源を減らす。よい物ではない。けれどいつも食後に少し飲むだけなら、食事の毒を消し、上に昇った気を下げ、眼をはっきりさせる効果がある。味の濃いものを食べる人なら、老人で気血が少ない人も少しだけ飲むときは利点がある。
煎茶、碾茶どちらでもその人の好みにまかせればよい。老人は濃い茶を夜になってから飲むのは良くない。気が下がり目がさえて眠る事ができない。ますます老人の目覚めを促して、よく小便を通じて害が多い。よく覚えておくべきことである。
・〈前略〉たばこの性質について、石匏(せきほう)氏は「胸の痞え、痰の塞がりを通じ、経絡の滞りを開き、寒湿によるしびれを治す」という。これはたばこの効能をほめている。また、たばこの毒を論じるには、「けむりが体内に入って気道を急に開けて、全身が心地よく思えるが、火と元気は両立しない。人の元気は邪火に堪えがたい。一日中けむりで薫じていると、かならず体の元気を消耗し、水分や血が日に日に枯れていき、天から授けられた寿命を損なうが、当人はこれを知らない」という。
なので、体の血や水分が少なくなって元気がない老人は、邪火に堪えられられない。
人は歳をとると、体の水分が無くなっていくため、利尿作用のあるお茶を多く飲むのを戒めているのだと思います。ただし、血の流れを良くする作用、頭に昇った気を下げる作用、覚醒作用があるので、食事による血の滞りを消し、気が昇って起こる頭痛を除き、眼をはっきりさせる効果があります。
また、体を冷やす性質から、胃腸も冷えるため、消化吸収能力が落ちます。消化吸収が悪い痩せた人などはあまりたくさんは飲まない方がいいです。
たばこの効能については、気分が良くなり、気が巡って起こる効果なのでしょうか。ニコチンによって、血管収縮と心拍数の増加が起こり、一時的に血流が良くなるからかもしれません。ハッキリとわからない部分です。
ただ、長期的にはけむりが火の性質をもつ病邪として、元気を消耗するとあります。たばこによって体の水分や血が枯れていくというのも、肺の潤いがなくなれば、痰がたまりやすくなり、血が枯れていくと血流が悪くなり、脳梗塞などにつながることから理解できます。やっぱり、たばこは、体に悪い効果があることは確かです。
さて、今回で食養生の部分は終わりです。
次は衣服のお話です。
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