老人必用養草6(衣服について)

香月牛山

引き続き『老人必用養草(ろうじんひつようやしないぐさ)』を紹介します。
 この本は、以前に紹介した『小児必用養育草(しょうにひつようそだてぐさ)』の香月牛山(かつきぎゅうざん)が1716年に著した本です。
 老人の養生、老人への接し方など現代にも通じるいろいろな教訓が書かれていて、今読んでもためになります。

  今日は衣服に関する部分を抜粋して読んでみます。

【原文】
・人の子の老たる親をやしなふや、夏は清しく冬は温にするにあり。是飲食の養ひにさしつづきたる事なるべし。『礼記』にも「衣の燠寒をとふ」と見へたり。老ては血気薄くして寒気に堪がたく、皮膚の気弱き故に風寒犯しやすし。又暑熱の邪も透やすし。ここを以て寒暑共に堪がたくしてものうし。

・孫真人の説に「人の衣服、夏月も涼しくしすぐすべからず。冬月とても温過べからず。」とあれば、その人々により寒温の中分あるべき事なり。しかれども老人は冬月には衣を厚く重ね過たるほどは、よきなり。衣薄ければ、気血とぼしき故に寒にあたりやすし。さはいへど、あまり厚くしすぎて汗など出ることは悪し。夏月暑とても衣を脱、肩をぬぐ事なかれ。枕席を扇ぎ過すべからず。裾をまくりて下部を清しくすべからず。寒暑にしたがつて心を用ひ、衣服の寒温を定むべき事也。

・老人寒気甚き時に衣服を着替事しばしばすべからず。やむ事をえずして着がゆる時は、あらかじめ衾炉(きんろ)にかけてあたためて着べし。衾炉にかくるときに、圃団を二つかけて、二つの中に衣服をかけて温むべし。直に火にてあぶりたる衣服を着すべからず。元気をやぶるなり。もとより冷えたる衣服そのまま着すべからず。


【訳文】
・子供が老いた親を養うには、夏は涼しく、冬は温かくする。これは飲食の養生に続くことである。『礼記』にも「衣服の寒温を問う」とある。老いると気血が少なくなり、寒気に堪えがたく、皮膚の気が弱いので風寒の邪が体に侵入しやすい。また、暑熱の邪も皮膚を通って体に侵入しやすい。なので寒暑どちらも堪えがたく、つらいものだ。

・孫真人の説に「人の衣服は夏も涼しくし過ぎてはいけない。冬も温かくし過ぎてはいけない。」とあるのは、その人その人によって寒温のちょうどよいところがあるということだ。だが、老人は冬には服を厚く重ね着し過ぎるくらいがよい。薄着だと、気血が少ないので寒にあたりやすい。そうは言っても、あまり厚くしすぎて汗が出るのは悪い。夏に暑いといっても、服を脱ぎ、肩をだしてはいけない。寝ているときに扇ぎ過ぎてはいけない。裾をまくって体の下を涼しくしてはいけない。気候の寒い暑いにしたがって、よく注意して服を決めることだ。

・老人が寒気が甚だしい時に服を何度も着替えてはいけない。やむを得ず着替えるときは、あらかじめコタツにかけて温めて着るべきだ。コタツに布団を二つかけて、その二つの布団の間に服を入れて温めるのがよい。直に火で温めた服を着てはならない。元気を消耗する。もちろん、冷えた服をそのまま着るのはいけない。


 人は歳をとると、気(体のエネルギー)も、血(筋肉や脂肪、体の水分)も少なくなるので、気候や気温の影響を受けやすくなります。すぐに風邪をひき、熱中症にもなりやすくなります。
 また、影響を受けやすいというのは、気温だけでなく、服の影響も受けやすいということです。夏も服を脱いだり、肩を出すのはよくなく、基本的に若い人より厚着の方がいいですが、厚着しすぎて汗をかくと、汗と一緒に気も漏れ出ていくので、注意が必要です。
 脚を冷やさないようにすることも重要です。脚が冷えると、脚から戻る血液も冷えて、その結果、お腹も冷えてしまいます。お腹が冷えると、消化吸収が悪くなり、ちゃんと栄養を吸収できず、体力が低下したり、下痢したり腹痛が起こる事もあります。
 冬に着替えるときは、冷えた服をそのまま着ずに、服を温めてから着るように気を付けてください。

 以上のことをまとめると、薄着はやめて、汗が出ない程度に厚着をするように心がけるようにと注意しています。

 次は家のお話です。

老人必用養草の記事一覧はこちら↓
https://halenova.com/blog/?p=4887

漢方薬局ハレノヴァ

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症状・病気別漢方

症例

かぜのような体の不調

50代女性
主訴:かぜのような体の不調が続く

現病歴:
 趣味のスポーツを練習中、かぜのような寒気がした。葛根湯を飲んで少し元気になった。1週間後、同様の症状。
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漢方の「肝」について

漢方と現代医学では、同じ用語でも全く同じものを指すことはありません。
「五つの臓(臓器)」の名前でいうと、西洋医学では、臓器そのものの実体を指す言葉ですが、漢方では、システムや機能単位で区切った言葉です。
今回、「肝」について紹介いたします。
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しびれ・知覚鈍麻について

正常な人でも、正座を長時間した後に、しびれを感じることがあります。慢性的に血行不良が続いたり、一時的な血行不良のあと、一部血流が再開すると、しびれを感じます。
漢方でも、しびれや知覚のマヒは、症状のある部分に気血(エネルギーや血液)が届かなくなって起こると考えます。
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年末年始休業日のお知らせ(2023~24年)

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2023.12.16(土)

漢方薬局ハレノヴァの年末年始休業日をお知らせいたします。

年末年始休業期間:2022年12月29日(金)~2023年1月4日(木)

期間中、メールでのお問い合わせは受け付けておりますが、お返事は2023年1月5日(金)以降となります。
また、休業期間中はオンラインショップの発送業務も停止いたしますので、予めご了承ください。

ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願い申し上げます。

コロナ後の不調(体のだるさ、痰・喉の違和感)

40代男性
主訴: コロナ後の体のだるさ、痰、喉のイガイガ

現病歴:
 午前中は動けるが、午後からしんどくなる。体を動かした後や、仕事に集中するとだるくなる。昼食後は眠たい。夕方も時に寝たい。休日も不変。
 咳はでないが、痰が出る。透明で粘っこい。たまにのどにへばりついている。
 のどのイガイガは朝はマシで夕方になるにつれて悪化。
 コロナは1ヶ月前になった。初めは強い寒気、発熱37.5℃、水様便2~3日。その3日後に強いのど痛。さらに4日後に痰、咳だけ残った。

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病気になりにくい体・再発しにくい体について④(治療薬・健康を保つための薬)

人参5

前回、邪を防ぐ、邪の発生を予防するための方法をお話ししました。
今回は、漢方薬にも、治療のための薬、健康を保つのための薬があることについてお話しします。

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病気になりにくい体・再発しにくい体について③(邪への対処)

牛黄2

前回、正気を強くするためにはどのような方法があるかお話ししました。
では、邪を防ぐ、邪の発生を予防するにはどうすればよいでしょうか。
1,邪を細菌やウイルスとする場合、2,気候や環境とする場合、3,気血水の滞りとする場合に分けて考えてみます。

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病気になりにくい体・再発しにくい体について②(正気を強くする)

瓊玉膏300g8 沈香

前回、病気にならないためには、正気を強くするか、邪の侵入を防いだり、邪を体に溜め込まないようにするかどちらかという話をしました。
では、正気を強くするにはどうすればよいか。
正気を強くするには、正しい食事と睡眠をとる、治療のための薬ではなく保健のための薬を飲む、体の熱や冷えのバランスを整える、五臓(肺心脾肝腎)のバランスを整えるなどが必要です。

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病気になりにくい体・再発しにくい体について①(正気と邪)

防已3

病気になりたくないのは、全ての方に共通している思いではないでしょうか。
(むしろ病気になりたいという方は、深淵な哲学をお持ちの方か、探究心を窮めた狂気じみた方か、芯の図太い徹底した天邪鬼だと思います。)
では、病気になりにくい体、病気が再発しにくい体を目指すためにはどうすればよいでしょうか。
漢方の視点、治療薬、保健薬、生活習慣、心、いろいろな面からどうすればよいかを考え、何回かに分けてお話ししていこうと思います。

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夏季休業期間のお知らせ(2023)

8月のたぬき

2023年8月10日(木)

漢方薬局ハレノヴァの夏期休業期間をお知らせいたします。

夏期休業期間:8月11日(金)~8月16日(水)

休業日もメールでのお問い合わせは受け付けておりますが、お返事は翌営業日以降となります。
また、オンラインショップの発送業務も停止いたしますので、予めご了承ください。

ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いいたします。

瓊玉膏について⑥(更年期)

更年期の悩みは、パートナーの方など周りに理解されないことも多く、一人で抱え込んでしまうこともあります。
現在は、更年期症状が出る年齢が早まっている方も少なからずいらっしゃって、そういった方は、世間一般にいう更年期の年齢ではないため、一層、理解を得られにくくなっています。

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車酔いからくる手足のしびれ

40代女性
主訴:車酔い・手足のしびれ

現病歴:
 前日バスで酔った。以前からあるが、車酔いで胃の違和感、胃のしびれが出て、その後、手足がしびれ、体が硬直して動かなくなる。
 明日から車を運転して、出かける予定なので、何とかしたい。
 今日は食べられるがムカムカしている。頭に霞がかかったよう。手足の冷え(-)。喜冷飲。ムカムカと頭の症状同程度。

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こむら返り・便秘

70代男性
主訴:#1こむら返り・#2便秘

現病歴:
#1ゴルフをしていると後半に足がつる。芍薬甘草湯を飲んで、以前は効いていたが、効かなくなった。夏もつる。つりやすい時間帯はない。足に毛布をくるんで寝ると多少マシ。
#2直腸がん切除後から排便障害あり。酸化マグネシウムで便通がある。出が悪く、ガスも溜まる。便秘で胸が悪くなる。

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回春仙について③(気付け)

回春仙は、13種類の生薬を配合し、心臓の症状以外にも応用できる漢方薬です。
1丸が小さいため服用しやすく、瓶も小さいので持ち運びやすいのが特徴です。
症状があるときに服用する、頓服薬としてとても便利な漢方薬です。
今回は、気付けに対する効果についてお話します。
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過敏性腸症候群(IBS)について

過敏性腸症候群(IBS)は、腹痛や便通の異常があり、数ヶ月にわたって慢性的に続く病気です。
人によって、便秘だけ、下痢だけが続いたり、便秘と下痢を交互に繰り返すこともあります。
症状が強いと、電車に長時間乗れず、トイレがない車両だと不安だったり、緊張する場面になるとすぐにお腹が痛くなり、トイレに何度も駆け込むなど、生活に支障をきたすこともあります。
漢方では、どう考えて薬を決めていくのか、次にご紹介します。
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