老人必用養草7(住まいについて)

香月牛山

引き続き『老人必用養草(ろうじんひつようやしないぐさ)』を紹介します。
この本は、以前に紹介した『小児必用養育草(しょうにひつようそだてぐさ)』の香月牛山(かつきぎゅうざん)が1716年に著した本です。
老人の養生、老人への接し方など現代にも通じるいろいろな教訓が書かれていて、今読んでもためになります。

今日は住居に関する部分を抜粋して読んでみます。


【原文】
・老人の居所は南東をうけて陽気の方に向ふべし。南東の方は夏は涼しく、冬は温なるものなり。家作り、はれやかにして、床を高くし、下より湿気のあがらぬやうにしつらふべきなり。老人は常に気鬱しやすければ、はれやかにして、日もうらうらとさしわたり、春夏の夜は、月も座中にさし入ほどにかまへなすべし。埋れたる住居欝としき事をなすべからず。

・老人は気血弱く真気とぼしきによりて万事におどろきやすし。ここを以て老人の居所は、その屋鋪の中央に作りて、四方より物躁き音などの聞えぬやうにすべし。張思叔のこと葉に「居所は正静なるべし」とあれば、此心をもて家作りをすべき事也。

・老人常に座する所、冬は綿の入たる圃団をしきて、後に坐彔やうの物を置て、もたれて盤座すべし。常に平臥を好むべからず。前には脇息を置てよりそひ、或は禅板助老にて頤を支て静にして気息を調ふべし。如意(倭俗のいふ所の孫の手の事なり)など持て、身の痒き所をかくの便とすべし。夏月といふとも、あはせの圃団か又は毛織の類、氈などしきて坐すべきなり。畳の上、或は板敷の上に直に坐する事なかれ。もとより高貴の人の御座には褥をふくる事なればいふにおよばず。貧き人とても保養の事なれば、奢、栄耀といふにはあらじ。(後略)

・老人の居所の小庭は広からずして草花を植て、天気和暖の日は、庭に出てみづから花の芽をそだて、竹をたすけて生々のすがたを愛するときは、欝滞の気を散じて、老の保養これに過たる事有べからず。しかれども、しゐて花木に心を用過して、手づからみづから培ひなどする事はよろしからず。その上、糞汁などの穢しき臭を小庭のうちに入べからず。老人の気弱き此臭気にうたれて病を生ずる類多し。ただ花闘はしむるの志より発りて、保養の為をもやぶり、いたづらに財を費す。


【訳文】
・老人の住まいは南東の陽気の多い方へ向けるのがよい。南東は夏は涼しく、冬は暖かいものだ。家のつくりは晴れやかに、床を高くして、下から湿気が上がらないように設えるべきである。老人は常に気が滞りやすいので、晴れやかにして日が穏やかにさしこみ、春夏の夜は月の光も座敷の中まで差し込むように構えるのがよい。鬱々とした住まいにしてはならない。

・老人は気血が不足し、正気も少ないのでいろいろなことに驚きやすい。なので、老人の部屋は家の中央に作り、周りからの騒音が聞こえないようにしなければいけない。張思叔の言葉に「居所は正しく静かでなければいけない」とあるので、これを心得て家づくりをすべきである。

・老人が常に座る場所は、冬は綿入りの座布団を敷き、後ろに背もたれのようなものを置いて、もたれてすわる。いつも横になっていてはいけない。前には脇息をおいて寄りかかるか、或は禅板助老で顎を支えて静かに呼吸を調える。孫の手などを置いて、体の痒い所を掻くのを助ける。夏であっても、合わせの布団か毛織の類、敷物などを敷いて座る。畳の上や板敷の上に直に座ってはいけない。もともと身分の高い人の座席には敷物を敷くことは言うまでもない。貧しい人であっても、保養のためなので、奢りや贅沢というものではない。(後略)

・老人の住まいの庭は広くせず、植物を植え、天気がよい日は庭に出て自ら花の芽を育て、竹を育てて活き活きした姿を愛でれば、鬱滞した気分が晴れるので、保養にはこれ以上のことはない。しかし、強いて植物に心をつかい過ぎて、自分の手で土いじりなどをするのはよくない。その上、糞汁など肥やしの汚らわしい臭いを庭の中にいれてはいけない。老人の気は弱く、この臭気に侵されて病気になることが多い。ただ花の良さを競う考えが起こって、保養の為というのをないがしろにして、いたずらにお金を使う。


以上をまとめると、
老人は気が滞りやすいという特徴があるので、気が晴れやかになるように、光が差し込むようにして、庭にいろんな植物を育てて、気が鬱しないようにしないといけない。また、気が不足するので驚きやすく、騒音に悩むことのない部屋にする。気が不足するため冷えにも影響されやすいので、座るところには夏でも綿入りの座布団を敷く。人と競う心を起こすのは老人にはよくない。
ということです。

次は季節に応じた養生のお話です。

老人必用養草の記事一覧はこちら↓
https://halenova.com/blog/?p=4887

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症状・病気別漢方

症例

かぜのような体の不調

50代女性
主訴:かぜのような体の不調が続く

現病歴:
 趣味のスポーツを練習中、かぜのような寒気がした。葛根湯を飲んで少し元気になった。1週間後、同様の症状。
 食欲不振はないが、若干の寒気がある。毎年、春先に体調を崩しやすい。夜に寝る時だけ咳が出る。

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漢方の「肝」について

漢方と現代医学では、同じ用語でも全く同じものを指すことはありません。
「五つの臓(臓器)」の名前でいうと、西洋医学では、臓器そのものの実体を指す言葉ですが、漢方では、システムや機能単位で区切った言葉です。
今回、「肝」について紹介いたします。
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しびれ・知覚鈍麻について

正常な人でも、正座を長時間した後に、しびれを感じることがあります。慢性的に血行不良が続いたり、一時的な血行不良のあと、一部血流が再開すると、しびれを感じます。
漢方でも、しびれや知覚のマヒは、症状のある部分に気血(エネルギーや血液)が届かなくなって起こると考えます。
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年末年始休業日のお知らせ(2023~24年)

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2023.12.16(土)

漢方薬局ハレノヴァの年末年始休業日をお知らせいたします。

年末年始休業期間:2022年12月29日(金)~2023年1月4日(木)

期間中、メールでのお問い合わせは受け付けておりますが、お返事は2023年1月5日(金)以降となります。
また、休業期間中はオンラインショップの発送業務も停止いたしますので、予めご了承ください。

ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願い申し上げます。

コロナ後の不調(体のだるさ、痰・喉の違和感)

40代男性
主訴: コロナ後の体のだるさ、痰、喉のイガイガ

現病歴:
 午前中は動けるが、午後からしんどくなる。体を動かした後や、仕事に集中するとだるくなる。昼食後は眠たい。夕方も時に寝たい。休日も不変。
 咳はでないが、痰が出る。透明で粘っこい。たまにのどにへばりついている。
 のどのイガイガは朝はマシで夕方になるにつれて悪化。
 コロナは1ヶ月前になった。初めは強い寒気、発熱37.5℃、水様便2~3日。その3日後に強いのど痛。さらに4日後に痰、咳だけ残った。

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病気になりにくい体・再発しにくい体について④(治療薬・健康を保つための薬)

人参5

前回、邪を防ぐ、邪の発生を予防するための方法をお話ししました。
今回は、漢方薬にも、治療のための薬、健康を保つのための薬があることについてお話しします。

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病気になりにくい体・再発しにくい体について③(邪への対処)

牛黄2

前回、正気を強くするためにはどのような方法があるかお話ししました。
では、邪を防ぐ、邪の発生を予防するにはどうすればよいでしょうか。
1,邪を細菌やウイルスとする場合、2,気候や環境とする場合、3,気血水の滞りとする場合に分けて考えてみます。

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病気になりにくい体・再発しにくい体について②(正気を強くする)

瓊玉膏300g8 沈香

前回、病気にならないためには、正気を強くするか、邪の侵入を防いだり、邪を体に溜め込まないようにするかどちらかという話をしました。
では、正気を強くするにはどうすればよいか。
正気を強くするには、正しい食事と睡眠をとる、治療のための薬ではなく保健のための薬を飲む、体の熱や冷えのバランスを整える、五臓(肺心脾肝腎)のバランスを整えるなどが必要です。

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病気になりにくい体・再発しにくい体について①(正気と邪)

防已3

病気になりたくないのは、全ての方に共通している思いではないでしょうか。
(むしろ病気になりたいという方は、深淵な哲学をお持ちの方か、探究心を窮めた狂気じみた方か、芯の図太い徹底した天邪鬼だと思います。)
では、病気になりにくい体、病気が再発しにくい体を目指すためにはどうすればよいでしょうか。
漢方の視点、治療薬、保健薬、生活習慣、心、いろいろな面からどうすればよいかを考え、何回かに分けてお話ししていこうと思います。

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夏季休業期間のお知らせ(2023)

8月のたぬき

2023年8月10日(木)

漢方薬局ハレノヴァの夏期休業期間をお知らせいたします。

夏期休業期間:8月11日(金)~8月16日(水)

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また、オンラインショップの発送業務も停止いたしますので、予めご了承ください。

ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いいたします。

瓊玉膏について⑥(更年期)

更年期の悩みは、パートナーの方など周りに理解されないことも多く、一人で抱え込んでしまうこともあります。
現在は、更年期症状が出る年齢が早まっている方も少なからずいらっしゃって、そういった方は、世間一般にいう更年期の年齢ではないため、一層、理解を得られにくくなっています。

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車酔いからくる手足のしびれ

40代女性
主訴:車酔い・手足のしびれ

現病歴:
 前日バスで酔った。以前からあるが、車酔いで胃の違和感、胃のしびれが出て、その後、手足がしびれ、体が硬直して動かなくなる。
 明日から車を運転して、出かける予定なので、何とかしたい。
 今日は食べられるがムカムカしている。頭に霞がかかったよう。手足の冷え(-)。喜冷飲。ムカムカと頭の症状同程度。

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こむら返り・便秘

70代男性
主訴:#1こむら返り・#2便秘

現病歴:
#1ゴルフをしていると後半に足がつる。芍薬甘草湯を飲んで、以前は効いていたが、効かなくなった。夏もつる。つりやすい時間帯はない。足に毛布をくるんで寝ると多少マシ。
#2直腸がん切除後から排便障害あり。酸化マグネシウムで便通がある。出が悪く、ガスも溜まる。便秘で胸が悪くなる。

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回春仙について③(気付け)

回春仙は、13種類の生薬を配合し、心臓の症状以外にも応用できる漢方薬です。
1丸が小さいため服用しやすく、瓶も小さいので持ち運びやすいのが特徴です。
症状があるときに服用する、頓服薬としてとても便利な漢方薬です。
今回は、気付けに対する効果についてお話します。
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過敏性腸症候群(IBS)について

過敏性腸症候群(IBS)は、腹痛や便通の異常があり、数ヶ月にわたって慢性的に続く病気です。
人によって、便秘だけ、下痢だけが続いたり、便秘と下痢を交互に繰り返すこともあります。
症状が強いと、電車に長時間乗れず、トイレがない車両だと不安だったり、緊張する場面になるとすぐにお腹が痛くなり、トイレに何度も駆け込むなど、生活に支障をきたすこともあります。
漢方では、どう考えて薬を決めていくのか、次にご紹介します。
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