老人必用養草11(精神の補養について1)

香月牛山

引き続き『老人必用養草(ろうじんひつようやしないぐさ)』を紹介します。
この本は香月牛山(かつきぎゅうざん)が1716年に著した本です。
老人の養生、老人への接し方など現代にも通じるいろいろな教訓が書かれていて、今読んでもためになります。

今日は精神の保養に関する部分の前半を抜粋して読んでみます。


【原文】
・七情は、医家には喜・怒・憂・思・悲・恐・驚という。『素問』に出たり。儒家には喜・怒・哀・懼・愛・悪・慾といふ。『礼記』に見えたり。人、此身あれば此情なくんばあらじ。これをほどよくすれば元気めぐりて養となり、節(ほどよき)に過れば此身を害するなり。(中略)老人は気血弱き故に七情の私にかつ事をえず。虚火たかぶりて動きやすし。能々つつしむべき事なり。

・喜びの情は心の司る所なり。人、年老ては気血とぼしくなりて、物毎にただ感情ぶかく、喜しき事を聞ても、うれしなきとて涙を流す。子となり孫となりて、常に老親の前にて物がたりには、天下の太平と国の掟の正しき事と、一門の繁栄、他門のよき事とのみをいひ聞する時は、喜を生じて寿ものぶる心地するなるべし。(中略)『素問』に喜ときは心を傷ると、又喜ときは気緩まるといへり。七情のうちにて、喜ばかりは老人にさまで害をなす事なし。されどもそのよきほどはあるべき事なり。


・怒りの情は肝の主る所なり。年老ては陰血涸て孤陽ひとりたかぶりて、ややもすれば怒やすし。孝子順孫ありといへども、心にかなふ事なく、倭俗の諺にいふがごとく「隠居ひがみ」とやらんにて、何かにつれて不足のみをいひ出て、親子の中もむつまじからぬ類おほし。子としては随分をのれをつくして孝をつとめて、怒をおこさぬやうにすべし。(中略)『素問』に 「怒ては肝を傷る」、又「怒ときは気上る」といへり。


・憂の情は肺の主る所なり。年老ては気とぼしくなるによりて、身の憂、子孫の憂はさらなり。他人の憂を聞だにも心よからず。老後その身も康寧にして、子供に病患もなく、生別死別の憂もなければ、天年の寿命よりも生のぶる心地するなり。如斯(かくのごとく)の幸なる人は、上寿をもたもつべきに、一両年の間に子孫にあやしき変災など出来て憂事打つづく時は、俄に老衰して死する類おほし。(中略)『素問』に「憂ては肺を傷る」、又「憂るときは気聚る」といへり。

・思の情は脾の主る所なり。年老ては気とぼしく、物を思慮する事よろしからず。『素問』にも「思ときは気結る」といへり。文学など好む人も詩賦文章などをふかく思惟すべからず。


【訳文】
・七情は、医師は、喜び、怒り、憂い、思い悩み、悲しみ、恐れ、驚きという。『素問』に書いてある。儒家は、喜び、怒り、哀しみ、懼れ、愛、悪み、慾という。『礼記』に書いてある。人は体があれば感情がないわけがない。ほどよく感情を表すことで元気が巡って体を養うが、過度になると体を害する。(中略)老人は気血が弱いので感情を抑えることができない。虚火がたかぶって症状が出やすい。よく慎まないといけない。

・喜びの感情は心が司る所である。人は年老いると気血が少なくなって、何かあるごとに感情が大きく、喜ばし事を聞くと、うれしなきと涙を流す。子や孫が、常に老親の前で話すには、世間の平和と国の決まり事のただしさと、一族の繁栄、そのほかよいことだけを言い聞かせれば、喜びが生じて寿命も延びる心地がする。(中略)『素問』に喜ぶときは心を傷つける、また喜ぶときは気が緩まるという。七情のうちでは、喜だけは老人にそこまで害をなすことはない。そうではあるが、程度をわきまえるべきだ。

・怒りの感情は肝が主る所である。年老いると、体の水分や血液が涸れて少なくなり、体の機能だけがたかぶって、少しのことで怒りやすい。孝子順孫(父母や祖父母につくす子供)がいても、心に沿うことがなく、俗に言うような「隠居ひがみ」のように、何かにつけて不満だけを言い、親子の仲も疎遠となるものが多い。子供としてはずいぶんと身を尽くして孝行につとめ、怒りが起きぬようにする。(中略)『素問』に「怒ると肝を傷つける」、また「怒ると気が上る」という。

・憂いの感情は肺が主る所である。年老いると元気が減るにつれて、体の心配、家系の心配はさらに高まる。他人の心配を聞くことさえ心によろしくない。老後に体も健康で、子供に病気もなく、生き別れ死に別れの心配もなければ、天から授けられた寿命よりも生きのびる心地がする。このような幸せな人は、百歳でも生きられるはずだが、1,2年の間に子や孫におかしな災いなどが起こり、憂い事が続くなら、突然、老衰して死んでしまうものが多い。

・思い悩む感情は脾が主る所である。年老いると気が減るので、物事を深く考え込むことはよくない。『素問』にも「思い悩むと気が結ぼる」という。文学などを好む人も詩や歌、文章を深く考え込んではいけない。


以上をまとめると、
・感情を発散させすぎるのはいけない。適度に感情豊かに。
・喜びはほどほどであれば心と体によい。
・老人は少しのことで怒りやすくなる。怒ると気が頭に上る。
・心配事が続くと、急に心身が衰えて死ぬことがある。
・年老いてからは、考え事もほどほどに。


次は、精神の保養のお話後半です。

老人必用養草の記事一覧はこちら↓
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「インペアードパフォーマンス」という言葉をご存じですか。
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親知らず抜歯後の痛み

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現病歴:7日前に親知らずの抜歯をした。数日してから痛みが出だした。今日はずっと痛い。痛み止めを飲むと、少し楽になる。抗菌薬は処方されていない。

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年末年始休業日のお知らせ(2024~25年)

2015門松

2024.12.2(月)

漢方薬局ハレノヴァの年末年始休業日をお知らせいたします。

年末年始休業期間:2024年12月29日(日)~2023年1月5日(日)

期間中、メールでのお問い合わせは受け付けておりますが、お返事は2023年1月6日(月)以降となります。
また、休業期間中はオンラインショップの発送業務も停止いたしますので、予めご了承ください。

ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願い申し上げます。

頭がぼーっとする

20代女性
主訴:頭がぼーっとする

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 昨日から、頭がぼーっとする。今日は特にひどい。頭に熱感がある。少し頭痛がある。
 

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アトピー性皮膚炎について②

アトピーの治療で「本当は冷えによって起こっている」「身体の内側は冷えているから温めないといけない」が、好きな人が多いなあと思います。
熱症状と思える炎症が、実際は冷えで起こっているのだと言うと、逆説的で、それが今までの考え方をひっくり返してくれて、袋小路に入り込んだ思考に新たな抜け道を与えてくれるようで、飛びつきたくなるのでしょうか。
治療者も、患者も心地いいのかもしれません。
ただ、冷えが悪いのは、そこから巡りが悪くなるからであって、炎症がある直接(根本ではなく)の原因は気血津液の滞りだと考えます。
いずれは温める薬が必要であったとしても、今の肌の状態を考慮しないといけません。

少なくとも炎症が強い時は、強く温める生薬を使わない方が、無難です。どうしてもという時に、いろいろと組み合わせながら、慎重に使います。
局所の熱症状がある時に、強く温める薬を使うと、大体、悪化してるように感じます。
体が冷えている場合、熱症状がある程度取れてから、少しずつ温めていくのが一番良いのではないかと思います。

※文字化け防止のために「艸+弓」を「弓」に置き換えています。

めまい

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主訴:めまい

現病歴:
 1年前からめまいがあり、最近は頻繁にある。昼に症状強く、夜はマシ。生理中に症状強い。生理前から期間中はずっとある。動けなくなることもある。寝不足で悪化し、動悸も伴う。曇天時悪化し、体のだるさも伴う。季節での変化(-)。季節の変わり目(+)。空腹時とその後食べた時にも悪化。グルグルしためまいと血の気がひくめまいどちらもある。
 

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うつ症状

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不眠

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主訴:不眠

現病歴:
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 最近は、暑さのせいもあるのか、眠れない。熟眠感ない。寝起き悪い。途中覚醒もあり、昼間眠い。仕事中困る。疲れもとれない。
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老人必用養草17(老人の疾病治療について2)

香月牛山

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今日は老人の疾病治療に関する部分を抜粋して読んでみます。

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夏季休業期間のお知らせ(2024)

李時珍1

2024年8月2日(金)

漢方薬局ハレノヴァの夏期休業期間をお知らせいたします。

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また、オンラインショップの発送業務も停止いたしますので、予めご了承ください。

ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いいたします。

かぜ(コロナ?)

30代女性
主訴:かぜ(コロナ?)

現病歴:
 夫がかぜで倒れたあとに発症。頭痛、手足がだるい、寒け少し、37℃強の微熱。

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