老人必用養草13(身体の補養について1)

香月牛山

引き続き『老人必用養草(ろうじんひつようやしないぐさ)』を紹介します。
この本は香月牛山(かつきぎゅうざん)が1716年に著した本です。
老人の養生、老人への接し方など現代にも通じるいろいろな教訓が書かれていて、今読んでもためになります。

今日は身体の保養に関する部分を抜粋して読んでみます。


【原文】
・年老ては手足をひたと撫で気血をめぐらすべきなり。手足の指を屈伸する事、一日一夜に十余度すべし。臥すにのぞんでは膝より下、脛(はぎ)より足心までを侍婢・侍童の類の手をして按摩(なでさすり)すべきなり。それも冬月はなすべからず。閉蔵の時は按摩によろしからず。手足に心をつれて屈伸する時は、卒中風(そっちゅうぶ)の患なし。

・老人は常に気とぼしきによりて眠やすし。されど、又わかき時のごとく熟睡する事もならず、昼はねぶりて夜は眼さむるなり。

・古人の説に、「眠は目の食なり」といひて、眼は眠を持ざれば養ふべき事なし。飲食の人を養ふにことならず。飲食過る時は其身を害し、眠過る時はその眼を害す。眠の慾を禁ずべきなり。

・朝起るとそのまま井に臨で水面を見るべし。是を「井華を服す」と古人もいへり。井の水より地中の清陽平旦に上升する時なれば、其気を眼にうけてエイ膜をさり、眼精を明かにするなり。毎朝をこたる事なかれ。

・老眼の養ひやうは、青々としたるを見て睡をさまし、物にまぎれて昼臥すべからず。夜は人定霄(夜の四つをいふなり)の比、或いは子の刻ばかりに至りて寝るべし。

・老人は血すくなき故に、熟睡する事なくて寝覚がちなり。朝はとく目覚る事なれば、はやく起て上にいふ所のごとく、井華を服し、春二月半より秋八月末までは、庭に出て草木の青みを見るときは、眼の病といふ事なく、眼性もつよきことなり。

・老人は気血とぼしければ、多言をなし、声高く喚などすれば、心脾をやぶりて元気をもらす。常に黙然として養ふべきなり。

・食後に温茶をもて口漱べし。魚味の穢臭を去て快し。東坡の説に「食後濃茶をもて口を漱ば煩シュウ(月+戢)既に去て、脾胃をのづから清し」といへり。

【訳文】
・歳をとってからは手足をしっかりと撫でて気血を巡らせるのがよい。手足の指を曲げ伸ばしするのを、1日に十数回する。寝るときには、膝より下、ふくらはぎから足の裏中心までを、小間使いや小僧などに手でさすらせるべきである。しかしそれも冬はしてはいけない。気を発散させずに蓄えるべき時期は按摩はよくない。手足を意識して曲げ伸ばしすれば、卒中の心配はない。

・老人は常に気が少ないので眠りやすい。だが、また若い時のように熟睡する事もできず、昼は寝て夜は目が覚めるものである。

・古い人の説に、「眠りは目の食事である」といい、眼は眠りがなければ養うことができない。飲食が人を養うことと違いはない。飲食が多すぎる時はその身を害するように、眠り過ぎればその眼を害する。睡眠欲を慎むべきである。

・朝起きたらそのまま井戸へ行き水面を見るのがよい。これを「井華(せいか)を服す」と古人も言った。井戸の水から地中の清らかな陽気が昇る時間なので、その気を眼に受けてかげりを去り、眼を明るくする。毎朝欠かすことのないようにしなさい。

・老人の眼を養うには、青々としたものを見て眠気を覚まし、雑多なことをして昼寝をしてはいけない。夜は10時、あるいは12時ごろになったら寝なければいけない。

・老人は血が少ないために、熟睡する事がなく寝ていても目覚めがちである。朝はやくに目が覚めたら、早く起きて上に言ったように、井華を服し、春2月半ばから秋8月末までは、庭に出て草木の青さを見れば、眼の病もなく、眼の力も強くなる。

・老人は気血が乏しいので、たくさん喋り、声高く人を呼ぶなどすると、心脾を傷つけて元気を漏らしてしまう。常に寡黙にして養生するのがよい。

・食後に温かい茶で口をすすぐのがよい。魚の臭みを去って心地よい。蘇東坡の説に「食後に濃いお茶で口をすすげば生臭さや気持ち悪さが去って、脾胃が自ずと清くなる」という。


次は、体の保養のお話後半です。

老人必用養草の記事一覧はこちら↓
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症状・病気別漢方

症例

かぜのような体の不調

50代女性
主訴:かぜのような体の不調が続く

現病歴:
 趣味のスポーツを練習中、かぜのような寒気がした。葛根湯を飲んで少し元気になった。1週間後、同様の症状。
 食欲不振はないが、若干の寒気がある。毎年、春先に体調を崩しやすい。夜に寝る時だけ咳が出る。

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漢方の「肝」について

漢方と現代医学では、同じ用語でも全く同じものを指すことはありません。
「五つの臓(臓器)」の名前でいうと、西洋医学では、臓器そのものの実体を指す言葉ですが、漢方では、システムや機能単位で区切った言葉です。
今回、「肝」について紹介いたします。
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しびれ・知覚鈍麻について

正常な人でも、正座を長時間した後に、しびれを感じることがあります。慢性的に血行不良が続いたり、一時的な血行不良のあと、一部血流が再開すると、しびれを感じます。
漢方でも、しびれや知覚のマヒは、症状のある部分に気血(エネルギーや血液)が届かなくなって起こると考えます。
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年末年始休業日のお知らせ(2023~24年)

19052301

2023.12.16(土)

漢方薬局ハレノヴァの年末年始休業日をお知らせいたします。

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コロナ後の不調(体のだるさ、痰・喉の違和感)

40代男性
主訴: コロナ後の体のだるさ、痰、喉のイガイガ

現病歴:
 午前中は動けるが、午後からしんどくなる。体を動かした後や、仕事に集中するとだるくなる。昼食後は眠たい。夕方も時に寝たい。休日も不変。
 咳はでないが、痰が出る。透明で粘っこい。たまにのどにへばりついている。
 のどのイガイガは朝はマシで夕方になるにつれて悪化。
 コロナは1ヶ月前になった。初めは強い寒気、発熱37.5℃、水様便2~3日。その3日後に強いのど痛。さらに4日後に痰、咳だけ残った。

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病気になりにくい体・再発しにくい体について④(治療薬・健康を保つための薬)

人参5

前回、邪を防ぐ、邪の発生を予防するための方法をお話ししました。
今回は、漢方薬にも、治療のための薬、健康を保つのための薬があることについてお話しします。

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病気になりにくい体・再発しにくい体について③(邪への対処)

牛黄2

前回、正気を強くするためにはどのような方法があるかお話ししました。
では、邪を防ぐ、邪の発生を予防するにはどうすればよいでしょうか。
1,邪を細菌やウイルスとする場合、2,気候や環境とする場合、3,気血水の滞りとする場合に分けて考えてみます。

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病気になりにくい体・再発しにくい体について②(正気を強くする)

瓊玉膏300g8 沈香

前回、病気にならないためには、正気を強くするか、邪の侵入を防いだり、邪を体に溜め込まないようにするかどちらかという話をしました。
では、正気を強くするにはどうすればよいか。
正気を強くするには、正しい食事と睡眠をとる、治療のための薬ではなく保健のための薬を飲む、体の熱や冷えのバランスを整える、五臓(肺心脾肝腎)のバランスを整えるなどが必要です。

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病気になりにくい体・再発しにくい体について①(正気と邪)

防已3

病気になりたくないのは、全ての方に共通している思いではないでしょうか。
(むしろ病気になりたいという方は、深淵な哲学をお持ちの方か、探究心を窮めた狂気じみた方か、芯の図太い徹底した天邪鬼だと思います。)
では、病気になりにくい体、病気が再発しにくい体を目指すためにはどうすればよいでしょうか。
漢方の視点、治療薬、保健薬、生活習慣、心、いろいろな面からどうすればよいかを考え、何回かに分けてお話ししていこうと思います。

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夏季休業期間のお知らせ(2023)

8月のたぬき

2023年8月10日(木)

漢方薬局ハレノヴァの夏期休業期間をお知らせいたします。

夏期休業期間:8月11日(金)~8月16日(水)

休業日もメールでのお問い合わせは受け付けておりますが、お返事は翌営業日以降となります。
また、オンラインショップの発送業務も停止いたしますので、予めご了承ください。

ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いいたします。

瓊玉膏について⑥(更年期)

更年期の悩みは、パートナーの方など周りに理解されないことも多く、一人で抱え込んでしまうこともあります。
現在は、更年期症状が出る年齢が早まっている方も少なからずいらっしゃって、そういった方は、世間一般にいう更年期の年齢ではないため、一層、理解を得られにくくなっています。

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車酔いからくる手足のしびれ

40代女性
主訴:車酔い・手足のしびれ

現病歴:
 前日バスで酔った。以前からあるが、車酔いで胃の違和感、胃のしびれが出て、その後、手足がしびれ、体が硬直して動かなくなる。
 明日から車を運転して、出かける予定なので、何とかしたい。
 今日は食べられるがムカムカしている。頭に霞がかかったよう。手足の冷え(-)。喜冷飲。ムカムカと頭の症状同程度。

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こむら返り・便秘

70代男性
主訴:#1こむら返り・#2便秘

現病歴:
#1ゴルフをしていると後半に足がつる。芍薬甘草湯を飲んで、以前は効いていたが、効かなくなった。夏もつる。つりやすい時間帯はない。足に毛布をくるんで寝ると多少マシ。
#2直腸がん切除後から排便障害あり。酸化マグネシウムで便通がある。出が悪く、ガスも溜まる。便秘で胸が悪くなる。

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回春仙について③(気付け)

回春仙は、13種類の生薬を配合し、心臓の症状以外にも応用できる漢方薬です。
1丸が小さいため服用しやすく、瓶も小さいので持ち運びやすいのが特徴です。
症状があるときに服用する、頓服薬としてとても便利な漢方薬です。
今回は、気付けに対する効果についてお話します。
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過敏性腸症候群(IBS)について

過敏性腸症候群(IBS)は、腹痛や便通の異常があり、数ヶ月にわたって慢性的に続く病気です。
人によって、便秘だけ、下痢だけが続いたり、便秘と下痢を交互に繰り返すこともあります。
症状が強いと、電車に長時間乗れず、トイレがない車両だと不安だったり、緊張する場面になるとすぐにお腹が痛くなり、トイレに何度も駆け込むなど、生活に支障をきたすこともあります。
漢方では、どう考えて薬を決めていくのか、次にご紹介します。
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