老人必用養草14(身体の補養について2)

香月牛山

引き続き『老人必用養草(ろうじんひつようやしないぐさ)』を紹介します。
この本は香月牛山(かつきぎゅうざん)が1716年に著した本です。
老人の養生、老人への接し方など現代にも通じるいろいろな教訓が書かれていて、今読んでもためになります。

今日は身体の保養に関する部分を抜粋して読んでみます。


【原文】
・耳は腎の竅なり。人年老ては陰気をとろへ腎水涸て、おほくは聾となるなり。初老の時より色慾をつつしむときは耳聾の患いなし。老人、風病など患ふるに、発散の剤をおほく服すれば、上部の元気をもらして耳聾となるもの、ままおほし。

・鼻は肺の竅気の通利する所なり。常に香気を好んで悪臭を悪む。老人は気薄し。故に鼻気通利せず。ややもすれば鼻に清悌を流す。風寒の気にをかさるれば猶更鼻汁を流す。悪穢の臭気をかぐ事なかれ。香気もまた久しくかぐときは、元気もれやすし。特に麝香の入れたる薫物、かけ香などしきりにふるる事なかれ。元気をもらして老人に益なし。

・歯は骨のあまりにして腎の主る所なり。老人は腎水まづ涸(かるる)によりて歯みな脱落るなり。初老の時より心をつけて、腎精をやしなふ時は、歯つよくして生涯落る事なく物を食ふに味有て、老後の楽しみこれにしく事なし。

・年老ては元気うすく堅固なる事あたはず。九竅とぢがたく、ややもすればもれやすし。下部の二竅は陰にして、血分の主る所、老人は陰血涸て守りなし。能々二竅に心をつけて養ふべきなり。

・二便はきざす事あらば堪忍ぶべからず。速(すみやか)に通じて去べし。小便を久しく忍べば、たちまち小便ふさがりて淋病となる。大便をしばしば忍ぶときは、脱肛となり痔となる。大便通ぜずとて、つよく努力すべからず。元気をへらし、目悪く、心さわぎて其害多し。老人は気血涸て、うるほひなき故に、おほくは大便秘結するなり。辛辣の食物、糕・柿などのやうなる物食ふ事なかれ。



【訳文】
・耳は腎の穴である。人は老いると陰気が衰え、腎水が涸れて、多くは耳が聞こえにくくなる。初老の時から色欲を慎めば、耳が聞こえなくなる心配はない。老人はかぜなどになったとき、発散の薬を多く飲むことで、体の上部の元気がもれて耳が聞こえなくなる者が少なくない。

・鼻は肺の気が通じる所である。常にかぐわしい気を好んで悪臭を憎む。老人は気が少ないので、気が通じない。或いは鼻水を流す。風寒の気候に侵されると、さらに鼻水を流す。汚くけがれた匂いを嗅いではいけない。かぐわしい匂いもまた長く嗅ぐと、元気がもれやすい。特に麝香(じゃこう)が入っている薫物(たきもの)や掛け香などは頻繁に触れてはいけない。元気をもらすため老人に益はない。

・歯は骨の余りで、腎が主る所である。老人は腎水がまず涸れるため、歯がみな抜け落ちてしまう。初老の時から気を付けて、腎精を養えば、歯が強く生涯抜ける事なく、食べ物を食べるのにも味を感じられ、老後の楽しみはこれに及ぶことはない。

・年老いると元気が少なく、守る事もできない。九竅(注:目、耳、鼻、口、尿道、肛門)が閉じにくく、少しのことで漏れやすくなる。体の下部にある二竅は陰であり、血(けつ)が関わる所だが、老人は陰血が少なく、閉じ込めることができない。よく二竅に気を付けて養生するのがよい。

・大便と小便は便意を生じたら我慢してはいけない。速やかに出すのがよい。小便を長い間我慢すると、たちまち出にくくなって淋病(小便がポタポタと漏れる症状)となる。大便を何度も我慢すると、脱肛や痔となる。大便が出ないからと言って、強く力んではいけない。元気を減らし、目を悪くし、胸がざわつくなど、害が多い。老人は気血が少なくなり、潤いがないために、多くは便秘をする。辛く刺激のある食べ物やモチ、柿などのようなものは食べてはいけない。




「発散の剤をおほく服すれば、上部の元気をもらして耳聾となるもの、ままおほし」は本当なのでしょうか。老人は葛根湯や荊防敗毒散などを多く飲むと、耳が聞こえにくくなることがあるということになります。全面的に信じないとしても、少し、気に留めて、今後注意深く見てみようと思います。



次は、性欲についてです。

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