いつも、お薬をお渡しするまで、何をどう考えているのか、先日あった腹痛の相談を例にとり、紹介いたします。
30代の女性が、腹痛で来店されました。
まず、トリアージをしなくてはいけません。
薬局でのトリアージとは、病気に緊急度や重症度が高い場合に、適切に受診を促すことを指します。
腹痛でいらっしゃったときには、部位を考えます。今回、上腹部・みぞおちが痛いとのことでした。
上腹部の場合、胃の他に、大動脈弓や心臓の下端にかかるため、突然発症(○○している時に起こったとはっきり言える)でかつ、高齢者、喫煙者、糖尿病や高血圧、脂質異常症など基礎疾患がある場合などは、早急に受診してもらいます。
今回は、30代女性で、突然発症ではなく、痛みも強くはないので、緊急性はなさそうだと判断できます。
ここから、漢方の思考に切り替えます。
痛みが出る機序は、不栄則痛、不通則痛が原則です。
不栄則痛は、患部に気血(エネルギーや栄養)が届かずに痛みが出ることを指し、不通則痛は、患部に気血の滞りや邪魔なものがあり、痛みが出る事を指します。
不栄則痛の病態として、気虚、血虚があります。
不通則痛の病態は多くあり、食滞、気滞、熱邪、寒邪、便秘、於血などがあります。
さて、まずはご本人に症状に関して自由に話してもらいます。
4日前に仕事が忙しく、15時に昼ご飯を食べた。その後、19時に晩ご飯をつくり、特にお腹が減っていなかったが食べた。それからずっと痛みがある。とのこと。
次はこちらから尋ねてみます。
締め付けられる感じの痛み。痛みに波があるといえばあるが、はっきりしない。割とずっと痛みがあるように思う。食後に悪化する。げっぷ(-)。吐き気(±)。胃酸が上がる感じ(-)。痛くなった時に食べたのは生ものではない。冷たいものや温かいもの辛いもので悪化するか不明。脹った痛みではなく、痛みに波がない。便秘はしていない。
とのこと。
発症の様子から、気虚と血虚の可能性は低い。
婦人科疾患でもない限り、於血で腹痛が起こる可能性は低いのでとりあえず除外する。
気虚、血虚、於血に関しては、他の可能性が低かったり、お渡しした薬が効かなかったときに考えることにする。
おそらく、食滞か気滞。寒熱は問診だけではあまりわからない。
そこで、舌を見ると、舌質紅、薄白苔、やや胖大、舌尖と辺縁に紅点。
胃熱+食滞と判断。
ガジュツ三黄散を3日分お渡しした。
これで改善しなければ、胃の気滞や脾胃の昇降失調を念頭に、もう一度考える。
後日お聞きすると、1包服用すると、10分ほどで痛みが消え、1時間弱で違和感も消えた。1日分服用して中止したとのこと。
残りは、今後のために、冷蔵庫に保管しておいてくださいとお伝えして終了した。
最後にこの経験で得られたことなどをまとめます。
黄連とガジュツのみでも効果があったのかもしれない。
苔がしっかりあれば、大黄も必要だったと思う。
痛みよりも、痞えが主であれば、ガジュツは必要なく、半夏瀉心湯を使用するのがよかったと思う。
などと、次に活かせるように薬をお渡しした履歴に記入して終了です。
ひとによって多少の差はあると思いますが、私の場合は、おおよそ、このように考えながら、漢方薬をお渡ししています。
「腹痛ならこの薬。効果がなければこの薬。」のような、短絡的な思考ではないことを知っていただければ幸いです。
※文字化け防止のために、「病だれ+於」を「於」に置き換えています。