40代男性
主訴:膝の打撲
現病歴:運動をしていて、バランスを崩してこけて、アスファルトに膝をぶつけた。直後は歩けたが、数時間後から痛みが強くなり、今日は歩くのも辛い。
その他の症状・所見:左ひざに内出血があり、輪のように赤紫になっている。右は少しだけ。左ひざをかばいながら、何とか歩けるとのことなので、骨折はしていない様子。普段は、特に体力がない方ではない。脈はまずまず有力。舌質淡紅、歯痕、滑苔、中央から奥にかけて黄厚苔、舌下静脈怒張(+)。
大黄にも耐えられそうなので、少し多め、長めに駆於血薬として通導散1日4包で5日分。
5日後。通導散を飲むと、便は緩くなったが、下痢で困るほどではなかった。1日ごとに楽になり、5日ほどで痛みがあるものの、普通の歩き方になった。ただ、階段を降りる時に左ひざにズボンがこすれると、皮膚の違和感、マヒしたような感じがある。便が出る前に黄色く濃い尿が出た。とのこと。
通導散を2包に減らし、通絡作用のある地竜を加えてお渡しした。
さらに5日後、違和感は完全に消えた。平地も普通に歩ける。ただ、階段を上る時に、膝に痛みと違和感の中間のような感じが残っている。とのこと。
患部を触ると、少しだけ熱がある。また、少し水っぽい。
石膏と黄耆が必要だと思い、清熱薬と利水薬を組み合わせて合わせて7日分お渡しした。
10日後、階段を駆け上がっても痛みはなくなり、回復した。とのこと。
所感:通導散は、尿から熱を取ることもできるのだろうか。『金匱要略』の茵陳蒿湯条の後に「尿如皀角汁状、色正赤」とあり、大黄自体で尿は着色することが書かれているが、熱が出て黄色になっているとは全く考えられないのだろうか。『神農本草経』には大黄の効能として「通利水谷道」とあり、尿からも熱を逃がすことができるのかもしれない。
通導散と治打撲一方はどちらも外傷に使われるが、どう使い分けるか。通導散は肌肉の活血に直接はたらくのが当帰のみであるのに対して、治打撲一方は当帰よりも強く体表の血流をよくする桂皮、川弓が含まれていること、通導散は、全体として“降ろす”方剤となっていること、破血作用が強いことがポイントかと思う。頭部の外傷などでは、頭部の血流を良くする桂皮、川弓が入った治打撲一方は避け、降ろす作用のものがほとんどの通導散を使ったほうが良い。また、痛みや脹れが強い場合や筋肉の損傷が強い場合は治打撲一方、内出血がひどい場合は通導散などと使い分けられるかもしれない。
※文字化け防止のために、「病だれ+於」を「於」に、「草かんむり+弓」を「弓」に置き換えています。