老人必用養草15(身体の補養について3)

香月牛山

引き続き『老人必用養草(ろうじんひつようやしないぐさ)』を紹介します。
この本は香月牛山(かつきぎゅうざん)が1716年に著した本です。
老人の養生、老人への接し方など現代にも通じるいろいろな教訓が書かれていて、今読んでもためになります。

今日は身体の保養に関する部分を抜粋して読んでみます。

【原文】
・呂純陽の説に「我を生ずるの門、我をころすの戸」とありて、つつしまずんば有べからざるなり。聖人も「人わかき時は血気まさに剛(こは)し。是をいましむる事、色にあり」とのたまふ。いはんや老人の血気漸々に涸て精血薄くなり、もてゆくにおゐてをや、これをつつしまざらんや。

・素女の説に、「人、年二十の者は四日に一たび泄す。三十の者は八日に一たび泄す。四十の者は十六日に一たび泄す。五十の者は三十日に一たび泄す。六十の者は精を秘してもらす事なかれ。もし体気共にさかんならば一月に一たび泄すべし」といへり。これその大概をいふなり。

・色慾の事は人の生まれつきによりて格別に厚薄あるものなり。腎精弱きものは此数にかかはるべからず。精力をおしみて交接をまれにすべし。おほくは色慾も忽せになるものなり。

・又人によりて、わかき時は色慾の念もうすく、陽事もすくやかならぬもの、中年以上より陽事さかんに慾念つよくおこる事あり。これ以ての外の悪しき事なり。陰血涸て孤陽のたかぶればなり。燈(ともしび)の消えんとては、ひかりを増すにたとえたり。愚なる人は、わかき時よりかへりてつよくなりたるなどといひて、心のままに慾をむさぼりて卒病を生じ卒死にいたる。この時よく心をつけて慾念をおさへ、つつしみたもつときは、陰血生じて邪火しりぞき慾念おさまりて、老人の常となりて病も生ずる事なく、長寿を得る事なるべし。

・老人陽事萎ておこらずとて陽をひきおこす薬、烏頭・附子の類を服すべからず。丹渓もこれをいましむるに「およばざる事をおそれて、すくふに燥毒を以てす」といへり。孤陽たかぶりて陰血いよいよ減ずる事をしるべし。

【訳文】
・呂純陽の説に「(陰部は)自分が生まれてくる門、自分を殺す扉」とあり、慎まなければならない。聖人も「若い時は気力体力が盛んである。まず戒めるのは、色にある」と仰っている。なおさら、老人は気力体力が徐々に涸れて減り、精血が薄くなり、次第に衰えていくのだから、これを慎まなければならない。

・『素女経』に「ひとは、二十歳の者は四日に一度交接する。三十歳の者は八日に一度交接する。四十歳の者は十六日に一度交接する。五十歳の者は三十日に一度交接する。六十歳の者は精を留めてもらしてはいけない。もし、気力体力ともに盛んであればひと月に一度交接してもよい」とある。これは慎むことに関してほとんどを言っている。

・色欲には、人の生まれつきによって、とても個人差があるものである。腎精が弱いものは前の数字を参考にするべきではない。なるべく精を大切にして、交接を少なくするべきである。多くは色欲もさほど強くないものである。

・また人によっては、若い時は色欲が弱く、交接もままならないものでも、中年以降に欲が強くなることがある。これは特によくないことである。陰血が涸れて少なくなり、抑制がきかず独り陽がたかぶるためである。燈火が消えそうになるときに、かえって光が強くなることに例えられる。愚かな人は、若い時よりかえって強くなったと言って、ほしいままに欲をむさぼり、突然の病を生じて、突然、死に至る。この時によく気を付けて欲を抑え、慎んでいるなら、陰血が生じて邪火が退き欲情が収まって、一般の老人と同様になり、病気となる事もなく、長寿を得ることができる。

・老人が勃起不全だといって陽を引き起こす薬、たとえば烏頭や附子の類を服用してはいけない。朱丹渓もこれを戒めるために「できないことを恐れて、救うのに燥毒を使う」という。(補陽の性質によって)孤陽がたかぶって(燥の性質によって)陰血がますます減ることを理解すべきである。

一言でいってしまうと、「控えめに」たったそれだけです。

次は、老人の病気の治療についてです。

老人必用養草の記事一覧はこちら↓
https://halenova.com/blog/?p=4887

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症状・病気別漢方

症例

かぜのような体の不調

50代女性
主訴:かぜのような体の不調が続く

現病歴:
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漢方の「肝」について

漢方と現代医学では、同じ用語でも全く同じものを指すことはありません。
「五つの臓(臓器)」の名前でいうと、西洋医学では、臓器そのものの実体を指す言葉ですが、漢方では、システムや機能単位で区切った言葉です。
今回、「肝」について紹介いたします。
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しびれ・知覚鈍麻について

正常な人でも、正座を長時間した後に、しびれを感じることがあります。慢性的に血行不良が続いたり、一時的な血行不良のあと、一部血流が再開すると、しびれを感じます。
漢方でも、しびれや知覚のマヒは、症状のある部分に気血(エネルギーや血液)が届かなくなって起こると考えます。
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年末年始休業日のお知らせ(2023~24年)

19052301

2023.12.16(土)

漢方薬局ハレノヴァの年末年始休業日をお知らせいたします。

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コロナ後の不調(体のだるさ、痰・喉の違和感)

40代男性
主訴: コロナ後の体のだるさ、痰、喉のイガイガ

現病歴:
 午前中は動けるが、午後からしんどくなる。体を動かした後や、仕事に集中するとだるくなる。昼食後は眠たい。夕方も時に寝たい。休日も不変。
 咳はでないが、痰が出る。透明で粘っこい。たまにのどにへばりついている。
 のどのイガイガは朝はマシで夕方になるにつれて悪化。
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病気になりにくい体・再発しにくい体について④(治療薬・健康を保つための薬)

人参5

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牛黄2

前回、正気を強くするためにはどのような方法があるかお話ししました。
では、邪を防ぐ、邪の発生を予防するにはどうすればよいでしょうか。
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病気になりにくい体・再発しにくい体について②(正気を強くする)

瓊玉膏300g8 沈香

前回、病気にならないためには、正気を強くするか、邪の侵入を防いだり、邪を体に溜め込まないようにするかどちらかという話をしました。
では、正気を強くするにはどうすればよいか。
正気を強くするには、正しい食事と睡眠をとる、治療のための薬ではなく保健のための薬を飲む、体の熱や冷えのバランスを整える、五臓(肺心脾肝腎)のバランスを整えるなどが必要です。

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病気になりにくい体・再発しにくい体について①(正気と邪)

防已3

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夏季休業期間のお知らせ(2023)

8月のたぬき

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ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いいたします。

瓊玉膏について⑥(更年期)

更年期の悩みは、パートナーの方など周りに理解されないことも多く、一人で抱え込んでしまうこともあります。
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車酔いからくる手足のしびれ

40代女性
主訴:車酔い・手足のしびれ

現病歴:
 前日バスで酔った。以前からあるが、車酔いで胃の違和感、胃のしびれが出て、その後、手足がしびれ、体が硬直して動かなくなる。
 明日から車を運転して、出かける予定なので、何とかしたい。
 今日は食べられるがムカムカしている。頭に霞がかかったよう。手足の冷え(-)。喜冷飲。ムカムカと頭の症状同程度。

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こむら返り・便秘

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主訴:#1こむら返り・#2便秘

現病歴:
#1ゴルフをしていると後半に足がつる。芍薬甘草湯を飲んで、以前は効いていたが、効かなくなった。夏もつる。つりやすい時間帯はない。足に毛布をくるんで寝ると多少マシ。
#2直腸がん切除後から排便障害あり。酸化マグネシウムで便通がある。出が悪く、ガスも溜まる。便秘で胸が悪くなる。

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回春仙について③(気付け)

回春仙は、13種類の生薬を配合し、心臓の症状以外にも応用できる漢方薬です。
1丸が小さいため服用しやすく、瓶も小さいので持ち運びやすいのが特徴です。
症状があるときに服用する、頓服薬としてとても便利な漢方薬です。
今回は、気付けに対する効果についてお話します。
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過敏性腸症候群(IBS)について

過敏性腸症候群(IBS)は、腹痛や便通の異常があり、数ヶ月にわたって慢性的に続く病気です。
人によって、便秘だけ、下痢だけが続いたり、便秘と下痢を交互に繰り返すこともあります。
症状が強いと、電車に長時間乗れず、トイレがない車両だと不安だったり、緊張する場面になるとすぐにお腹が痛くなり、トイレに何度も駆け込むなど、生活に支障をきたすこともあります。
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