引き続き『老人必用養草(ろうじんひつようやしないぐさ)』を紹介します。
この本は香月牛山(かつきぎゅうざん)が1716年に著した本です。
老人の養生、老人への接し方など現代にも通じるいろいろな教訓が書かれていて、今読んでもためになります。
今日は老人の疾病治療に関する部分を抜粋して読んでみます。
【原文】
・人年老いては気血弱く皮膚薄きによりて、風寒暑湿の四気に感じやすし。しかれ共、気血弱きゆへ、受る所の邪気も、をのづから弱し。たとへば大なる木には風もつよくあたり、つよき枝は風のために吹折(ふきおら)るる事あれども、陰あはらなる枯木には、風も弱くあたり、よはき枝は風にしなひで、吹折(ふきおら)るる事なきがごとし。かく、すこしくあたりたる邪気も、わかき時のつよくをかされたるよりも、くるしむ事甚し。
・老人食に傷(やぶら)るる時は、消導の剤を用よ。霍香正気散、不換金正気散の類、三四貼用て後、香砂六君子湯、香砂平胃散の類を用べし。食滞をめぐらす峻(するど)なる薬をおほく服すべからず。元気を損じて害おほし。
・老人に風薬、食滞の薬を用てその邪を去るに、十分に邪を逐去(おいさる)べからず。
・人、初老の時より陰虧をのづからなかばすとあれば、陰を補ふくすりを用べきなり。六味地黄丸、八味地黄丸を用て其益多し。初老より中年まで用て、六十已後は用る事なかれ。人四十より五十有余までは陰気おとろふといへ共、いまだ尽にいたらず。同気相もとむるの○○(虫喰にて不明)にて、補陰の剤をもて涸行所の陰気をよびかへすによりて其益あり。
・老人血分涸て脾血かはき、皮膚皺みて、一元の真気のみながらふる人は、槁(かれ)たる木のうるほひなくて枯鉾に成、土中に根ありてたつに同じ。是とても、かぎりあれば終には倒れ尽るなり。(中略)此等の人に六味八味の地黄丸を用たればとて、陰気の増べき事有べからず。かへつて槁木に水をそそぎて腐損するにひとしかるべきなり。損ありて益なし。
・老人の常に服してよろしき薬剤は、六味八味の地黄丸、神仙巨勝子円、右帰丸、先丸、無比山薬円の類、いづれも其験おほし。され共、かようなる薬は、その人の性によりて、かなふとかなはざるとあれば、上手の医師に相談して用らるべき事なり。
【訳文】
・人が年をとると、気血が衰えて皮膚が薄くなり、そのせいで風寒暑湿の外気にやられやすくなる。しかし、気血が衰えているので、受ける邪気も、自然と弱いものになる。例えば、大きな木には風も強く当たり、強い枝は風によってふき折られることもあるが、日陰の枯れ木には風も弱く当たり、弱い枝は風にしなってふき折られることがないのと同じである。このように、少しだけ侵された邪気でも、若い時に強く侵されたよりも、症状が強く苦しむことが多い。
・老人が食事で体調を崩した時は、消化を助ける薬を用いるのが良い。霍香正気散、不換金正気散の類を3剤から4剤服用した後、香砂六君子湯、香砂平胃散の類を用いる。食事の滞りを巡らせる作用が峻烈な薬を多く服すべきではない。元気を損って害が多い。
・老人にかぜ薬や胃腸薬を用いて、その邪を去るのに、完全に邪を追い去ろうとしてはいけない。
・人は、初老の時から陰気が自然と半減するので、陰を補う薬を用いるべきである。六味地黄丸、八味地黄丸を用いると良いことが多い。40代から50代まで用いて、60代以降は用いてはいけない。人は40から50余りまでは陰気が衰えると言っても、まだ尽きてはおらず、同気相求めるの○○によって、補陰の剤で枯れていく陰気を呼び返す事で益がある。
・老人で血分が枯れて脾血が乾き、皮膚にしわができて、腎気だけが残っている人は、枯れた木で潤いがなく枯鉾のようになり、土の中の根だけで立っているようなものである。これも、限りがあって、終には倒れ尽きてしまう。これらの人に、六味地黄丸や八味地黄丸を用いたとしても、陰気が増す事はあるはずがない。かえって、枯れ木に水を注いで根を腐らせるようなものである。損ばかりで益はない。
・老人が常に服用して良い薬は、六味地黄丸、八味地黄丸、神仙巨勝子円、右帰丸、先丸、無比山薬円など、どれも効果が高い。そうはいっても、このような薬は、その人の性質によって、適するものと適さないものとあるため、上手な医者に相談してもらわないといけない。
老人になると、気血が少なくなり、病気にかかった時の状態も変わる。治療に際しても完全に邪を追い出そうとせず、大方治ったら、補剤に切り替えないといけない。
老人の健康維持のための薬は、その人に適したものを漢方に詳しい人に聞いて決めないといけない。
とのことです。
次も引き続き、老人の病気の治療についてです。
老人必用養草の記事一覧はこちら↓
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