アトピー性皮膚炎の薬について

 2020年から、アトピー性皮膚炎に対して、新たな作用を有する新薬が登場し、治療の選択肢が増えました。
 インターロイキンなどのサイトカインの作用経路を阻害して効果を発揮する薬です。

 新しい薬のメリットとデメリットをみて、意見を述べたいと思います。

人参6

デュピクセント皮下注
 デュピクセント皮下注は、従来の治療で十分に効果が出ない方が適応になり、初回に600mg、以後は2週間ごとに300mgを投与し、投与開始16週までに効果がみられなければ、投与中止を考慮します。投与によって、痒みが激減し、皮疹に関しては1か月前後でかなり治まるといいます。ただ、顔では投与後も赤みが残ることがある、対症療法のため中止により再発することがある、また、投与しているうちに効果がなくなる場合もあるとのことです。価格が高く、初月は薬剤料だけで約20万円、以後はひと月あたり約13万円です。一般の方だと、3割負担のため、診察料などを省いた薬のお金だけでひと月あたり4万円ほどかかります。

 顔に赤みが残るのは、熱、気逆、もしくは戴陽(たいよう)と考えられるかもしれません。手足や腹部、下半身の冷えがなく、舌や脈からも体の冷えを感じないにも関わらず、顔が赤い場合は熱と考えて、気分の熱なら石膏など、営分や血分の熱なら地黄や牡丹皮などを使えば良いと思います。手足や下半身が冷たい場合は気逆と考えて、桂枝や竜骨牡蠣などを使います。舌や脈から体の冷えがみられたり、温かいものしか飲めないなど、胃腸が冷えている場合は、戴陽と考えます。体の内部の強い冷えのせいで、頭へ熱が逃げてしまった状態なので、乾姜や附子などで中を温めて、頭から熱が戻ってこれるようにします。

 中止により再発することがある、投与しているうちに効果が無くなる場合もあるとのことから、デュピクセントの投与で痒みや皮疹が改善している間に、生活習慣を変え、漢方薬を服用しながら、根本から治すことが重要です。対症療法の薬であるため、漢方の視点から考えて、生活や体質に問題がある場合、一時しのぎにしかなりません。漢方薬を服用しつつ、安定したら薬の量を減らし、生活習慣で症状をコントロールできるように目指すのがよいと思います。
 また、漢方薬に比べて、価格が高すぎると感じます。10割の薬剤料が13万円もかかるので、医療費のことを考えると、うまく漢方薬を取り入れ、治療費を抑えていくのがよいかと思います。

コレクチム軟膏
 コレクチム軟膏は、外用ステロイドやタクロリムス(先発品:プロトピック)と作用のしかたが違う軟膏です。強さはタクロリムスと同程度で、タクロリムスで生じやすい灼熱感の副作用がないのが特徴です。
 免疫抑制薬であるため、皮膚感染症などにも注意する必要があり、臨床試験では毛包炎やざ瘡などが報告されています。口腔ヘルペスなどが現れた例もあるとのことです。
 ステロイド外用薬に比べて極端に副作用が多いわけではなく、タクロリムス軟膏使用初期の熱感やヒリヒリ感を除いた副作用の頻度は同程度のようです。
 個人的には、コレクチム軟膏に関しては、薬価が若干高い以外に特に問題はないように感じます。
 もちろん、生活や体質変える力はありませんので、生活習慣でコントロールしなくてはいけません。

オルミエント錠
 もともと、抗リウマチ薬として発売され、適応となる疾患が拡大された飲み薬です。使用できる施設と患者に条件があり、誰でも服用できる薬ではありません。適応は外用ステロイドやタクロリムスなどで治療しても十分な効果がなく、強い炎症が広範囲にある方です。
 副作用として、上咽頭炎、毛包炎、口腔ヘルペス、帯状疱疹の報告があります。腎臓から排出される薬のため、eGFRによって投与量が定められていて、腎機能が低下している方は注意が必要です。他にも、ステロイド薬の使用、高用量などでリスクが高くなります。
 デュピクセント皮下注と同じく、最適使用推進ガイドラインがあり、投与前にはレントゲンや血液検査を行い、結核の有無などを検査することが必要です。
 オルミエント4㎎1錠の価格は5000円強で、薬材料だけで月に16万円程度、3割負担では、毎月約5万円の一部負担金になります。ただし、経過が良ければ減量して続けることもあるようです。デュピクセントと同様、高価な薬かつ対症療法のため、うまく漢方薬を取り入れる方がよいように思います。

 

黄耆2
 

 最後に、ステロイドを含め西洋医学の薬をを漢方的にはどう捉えられるか考えます。西洋薬の代表として、ステロイドを中心に考えますが、ステロイドは、気、特に衛気(えき)を減らしていると考えられます。
 衛気(えき)というのは、体の表面を流れ、体の防御作用もある気の一種です。ステロイドは免疫の過剰反応を抑えるはたらきがあり、花粉症に点鼻薬が使われたり、自己免疫疾患に内服薬が用いられたりします。免疫は体内にウイルスや細菌が侵入して増殖するのを防ぐためにはたらくので、漢方では気や衛気のはたらきと考えられ、免疫の応答を抑制するステロイドは気を減らしているといえます。気が減ると炎症が鎮まるのは、①気は温める性質があること、②気と邪(身体の余分なものや体外から侵入してきた不要なもの)が戦ったり、邪が気の通り道を塞ぎ狭くすることで気が渋滞すると熱を発生することが関わっています。
 気を減らすと考えると、ステロイド外用薬の副作用である皮膚萎縮も説明がつきます。萎縮は細胞の数は変わらず、細胞自体が小さくなることですが、血(体内の栄養物質)や津液(体内の正常な水分)が少なくなったり、届かなくなるなどが原因で起こります。気はエネルギーであり、血や津液を運ぶのも気の役目です。気が減ると、血と津液も届きにくくなり、皮膚萎縮が起こると考えられます。
 さらに、アトピーとは関係ありませんが、副作用の高血糖なども、気が減ることで、気化作用(現代医学の異化作用)が抑えられるためと考えられます。



 まとめると、ステロイドなど西洋薬のデメリットは、免疫を抑制することで感染症が増える可能性があること、根本治療になっていないことです。
 外用薬では、肌が正常化して本来のバリア機能が働き、皮膚の感染症が減ることも十分にあるため、感染症については問題にならないかもしれませんが、内服薬や注射薬では、感染症の増加が見られます。
 すでに述べた通り、食生活、生活習慣、漢方薬などで根本から治すことが大切です。炎症を起こしやすい体質や生活のまま、西洋薬で症状を抑えても、再発することが多いです。



 もちろん、重度の悪化によって、生活に支障が出て、夜も眠れないときには、しっかり西洋薬で症状を抑えてください。
 漢方相談にいらした場合、当店では、病院の治療を全て止めて漢方薬だけにするようにお願いすることはありません。
 ご要望には、できるだけお応えいたしますので、病院での治療と漢方薬を併用して治したい方も、西洋薬を一切止めたい方も、ご相談ください。ただし、症状がかなりひどい方には、一時的にステロイド外用薬を処方してもらい、併用していただくこともあります。
 ステロイド外用薬の副作用が心配な方もいらっしゃると思いますが、内服薬ではなく外用薬の場合、上から3番目の強さ(ストロング)を1日20g以上(5gチューブ4本以上)塗り続けない限り、全身の副作用は出ないため、通常の使用量で心配しすぎることはありません。

 現代医学と東洋医学の長所を理解して、使い分け、キレイな肌を目指しましょう。

アトピーに関するその他の記事はこちら↓
https://halenova.com/blog/?s=%E3%82%A2%E3%83%88%E3%83%94%E3%83%BC

漢方薬局ハレノヴァ

TEL: 06-6312-8429

大阪市北区末広町3-21 扇町センタービル1F

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症状・病気別漢方

症例

頭がぼーっとする

20代女性
主訴:頭がぼーっとする

現病歴:
 昨日から、頭がぼーっとする。今日は特にひどい。頭に熱感がある。少し頭痛がある。
 

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アトピー性皮膚炎について②

アトピーの治療で「本当は冷えによって起こっている」「身体の内側は冷えているから温めないといけない」が、好きな人が多いなあと思います。
熱症状と思える炎症が、実際は冷えで起こっているのだと言うと、逆説的で、それが今までの考え方をひっくり返してくれて、袋小路に入り込んだ思考に新たな抜け道を与えてくれるようで、飛びつきたくなるのでしょうか。
治療者も、患者も心地いいのかもしれません。
ただ、冷えが悪いのは、そこから巡りが悪くなるからであって、炎症がある直接(根本ではなく)の原因は気血津液の滞りだと考えます。
いずれは温める薬が必要であったとしても、今の肌の状態を考慮しないといけません。

少なくとも、炎症が強い時は、強く温める生薬を使わない方が、絶対に無難です。
どうしてもという時に、いろいろと組み合わせながら、慎重に使うべきだと思います。
局所の熱症状がある時に、乾姜、附子、桂皮、川弓を使うと、大体、悪化してるように感じます。

そもそも、1人の人間が経験に基づいて言うことなんて、偏っているはず、偏っていて当たり前です。
冷えてるはずだから温める、で全員に対応していると、そこからこぼれる人が出てきます。
まあ、うちにいらっしゃる方に、温熱薬で悪化する人がたまたま多いだけと言えば、そうかもしれないです。
だからこそ、できるだけ先入観を取り除いて、薬を決めていかないと、と自分に言い聞かせています。

※文字化け防止のために「艸+弓」を「弓」に置き換えています。

めまい

20代女性
主訴:めまい

現病歴:
 1年前からめまいがあり、最近は頻繁にある。昼に症状強く、夜はマシ。生理中に症状強い。生理前から期間中はずっとある。動けなくなることもある。寝不足で悪化し、動悸も伴う。曇天時悪化し、体のだるさも伴う。季節での変化(-)。季節の変わり目(+)。空腹時とその後食べた時にも悪化。グルグルしためまいと血の気がひくめまいどちらもある。
 

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うつ症状

50代男性
主訴:うつ症状

現病歴:
 経営者。数か月前から、仕事のやる気が減った。以前は、仕事が重なっても、やる気があったが、今はスケジュールを見て、ため息をついたり、これから得意先との大事な話があるというときにしんどくなったりする。自分では、軽いうつなのではないかと思う。
 

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不眠

40代女性
主訴:不眠

現病歴:
 昨年春頃から、2週間に1日程度、朝4時まで眠れない日もあったが、次の日は眠れた。
 最近は、暑さのせいもあるのか、眠れない。熟眠感ない。寝起き悪い。途中覚醒もあり、昼間眠い。仕事中困る。疲れもとれない。
 コロナ禍以降は在宅勤務となり、動かないせいかも、もしくは更年期かもと考えている。
 眠れないからと、ついつい夜更かししてしまう。悪循環になっていると思う。

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老人必用養草17(老人の疾病治療について2)

香月牛山

引き続き『老人必用養草(ろうじんひつようやしないぐさ)』を紹介します。
この本は香月牛山(かつきぎゅうざん)が1716年に著した本です。
老人の養生、老人への接し方など現代にも通じるいろいろな教訓が書かれていて、今読んでもためになります。

今日は老人の疾病治療に関する部分を抜粋して読んでみます。

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夏季休業期間のお知らせ(2024)

李時珍1

2024年8月2日(金)

漢方薬局ハレノヴァの夏期休業期間をお知らせいたします。

夏期休業期間:8月11日(日)~8月15日(木)

休業日もメールでのお問い合わせは受け付けておりますが、お返事は翌営業日以降となります。
また、オンラインショップの発送業務も停止いたしますので、予めご了承ください。

ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いいたします。

かぜ(コロナ?)

30代女性
主訴:かぜ(コロナ?)

現病歴:
 夫がかぜで倒れたあとに発症。頭痛、手足がだるい、寒け少し、37℃強の微熱。

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コロナ後の痰・息切れ

40代女性
主訴:コロナ後の痰・息切れ

現病歴:
 2年前の秋にコロナ感染。痰が粘っこくひっつく。夜に1時間ごとに起きることもある。通常は透明で粘っこい痰。黄色い痰が出るとすっとする。夕方に悪化。
 “水蛭が入った漢方薬”をもらって服用しているが、効果なし。

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発疹

70代女性
主訴:皮膚の赤み

現病歴:
 数か月前から皮膚に地図状の赤みが出てきた。凹凸なし。痒み(-)、カサカサ(-)。

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眼感染症

60代女性
主訴:眼感染症

現病歴:
 コンタクトレンズを付けると、曇って見えた。眼科を受診すると、感染症と言われ、抗菌薬の点眼薬を処方された。点眼薬が合わず、途中で中止。1ヶ月後の受診時に治っていないと言われた。
 目の痒みは少し。痛み(−)。目脂は1週間に1回くらい。涙が出やすい(−)。目が疲れる。元々ドライアイ。

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気象病(天気痛)について

半夏4

気象病(天気痛)とは、天気や気圧の変化によって起こる痛みや体調の悪化をいいます。
雨の日が近づくと頭痛がしたり、リウマチの人なら関節が痛くなったり、喘息の人なら少しぜーぜーするなどの症状が出てきたりします。

漢方では、体の中に湿気をため込んでいる人は、気象病の症状が出やすいです。
体の中に湿が溢れていると、体の外の湿に、体の中の湿が反応して、体への影響が大きくなります。
カラッと晴れた湿度の低い、いい天気の時には、体内の湿も鳴りを潜めて大人しくしているのですが、外に味方がいるときには暴れてしまいます。

体の中に湿をため込む人(水の巡りが悪い人)は、いくつかの種類に分けることができます。
胃腸が弱いタイプ、腎が弱いタイプ、冷えているタイプ、肺が弱いタイプなどがあります。
胃腸が弱いタイプは、食事の量はあまり食べられなかったり、食後に眠くなりやすかったりします。漢方では、胃腸は水をさばく働きがあると考え、胃腸が弱いと、水の巡りが悪くなって、手足や頭に湿が溜まりやすくなります。
腎が弱いタイプは、喉が渇いて飲むけど尿が出にくかったりします。尿による不要な水の排出が悪くなることで、湿が溜まりやすくなります。
冷えているタイプは、手足が冷えやすかったり、冷たいものが飲めなかったりします。冷えているせいで、体内の水の巡りが悪くなり、湿を溜めてしまいます。
肺が弱いタイプは、かぜをひきやすかったり、動くとすぐに汗が出たりします。肺は体の上部や体表面の水を動かす働きがあるので、肺が弱いことも湿が溜まることに繋がります。
このほかにも、精神的ストレスで全身の気(エネルギー)の巡りが悪くなり、それに伴って水の巡りが悪くなるのが絡んでいる人もいます。
1人の人の中に、いろいろなタイプが混ざっていることが多いので、その人にあったお薬を選ばないといけません。

では、湿をため込まないためにはどうすればよいかですが、湿を入れない・生み出さない、湿を追い出す、この2つが原則です。
水を飲む量を考えたり、湿を生む甘いものや脂っこいものを避けたりして、湿の発生を防ぎ、しっかり動いて汗や尿として湿を追い出すなどが効果的です。
体が冷えると気血水の巡りも悪くなるため、氷入りの水分は取らないことなども重要です。

天気に関連する不調に関しては、西洋薬ではあまり効果がないため、漢方薬が大きな力を発揮します。
お一人お一人に合った漢方薬をご提案します。
よければ、一度ご相談ください。

暑熱馴化(しょねつじゅんか)について

防風1

暑熱馴化(しょねつじゅんか)。なぜかこの2、3年で急にニュースで聞くようになった言葉です。暑熱馴化ができていないと、熱中症のリスクが高まります。
体が暑さに馴れる馴れないとは別に、体質として、なかなか汗をかかない方は、結構います。漢方相談で来店される方の場合、汗をかきやすい、或はかけるかどうかはかなり重要な判断材料となります。

さて、暑熱馴化に関して簡単に説明すると、急に気温が上がる時期や、暑い日が続かない時期は、まだ体が暑さに慣れていなくて、汗を出したり体表面の血管を拡げて熱を体の外へ逃がす機序が上手く働かないということです。

厚労省や日本気象協会の情報から引用すると、予防には、ウォーキングやサイクリングなどの軽い運動、筋トレ、入浴などが有効で、汗を出やすい体にできると言います。
一度、体が暑さに慣れても、数日暑くない日が続くと、元に戻ることがあり、5月、梅雨の晴れ間、梅雨明けなどは気を付けなければいけません。

また、利尿薬や、自律神経にはたらくパーキンソン病の薬、広範囲の皮膚疾患を持っている方などは、熱中症の危険性が高いです。

まずは、運動で汗腺を鍛えることが重要ですが、それでも体質として難しい方は、漢方薬も選択肢になります。
漢方では、汗をかけないのは、体表面まで気を持って行けなかったり、体表面までの道で気が滞っていたり、体が冷えていて代謝が悪いなどの状態が考えられます。
漢方薬を試してみたい方は、一度ご来店ください。

唇の荒れ

80代女性
主訴:唇の荒れ

現病歴:
 唇が1ヶ月ほど前から荒れている。皮がめくれていて、自分でもめくってしまう。

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ゴールデンウィーク営業日(2024)のお知らせ

ゴールデンウィークはカレンダー通りに営業いたします。

休業日:2024年4月28日(日)、29日(月)、5月3日(金)~6日(月)
営業日:2024年4月30日(火)~5月2日(木)

期間中、メールでのお問い合わせは受け付けておりますが、お返事は翌営業日以降となります。
また、オンラインショップの発送業務も停止いたしますので、予めご了承くださいませ。

ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願い申し上げます。